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【血界戦線】番頭さんに珈琲を

第1章 連れてこられました



「……? 警部殿、何か暖かくないですか?」
「そういえばそうだな。どこかに火種でも残ってたか?」
「……いや、気のせいだったみたいだ。また寒くなった」
「は? 徹夜続きで、ついに身体がイカれたのか、てめえ」
「それは警部殿も同じでしょうが――」

 声は人ごみに紛れ、聞こえなくなった。

 …………

 公園のベンチに座り、ぼんやりと夕方の空を見上げる。
 ここはまだ、親子連れなどの一般人の姿が見える。少しは休めそうだ。

 目を閉じて、大きく息を吐く。

 そして思い出そうとした。

 自分の名字、親の名前、親の顔、住所、電話番号、アドレス……。

 ダメだ。いくら考えても何一つ思い出せない。

「……痛っ!」
 頭がズキズキする。髪の毛でどうにか隠してるが、頭の一箇所に抜糸された跡がある。


 一ヶ月前のこと。
 私は頭から血を流して、病院前で倒れていた。

 誰かが私を殴り、ここまで運んできたらしい。
 懐に、わずかばかりのお金が入れてあった他、個人情報が分かる物はゼロ。
 身なりからして、トラブルに巻き込まれた観光客だろうと、病院側は判断した。

 病院は私が持ってた金で傷は治してくれた。
 ヘルサレムズ・ロットの超医療で一日で縫合と抜糸完了である。
 しかし私は記憶喪失になっていて、途方に暮れた。

 そしたら病院が、観光客用の救済センターを紹介してくれた。

 そこに行けば、例え記憶喪失で一文無しだったとしても、一旦ヘルサレムズ・ロットの外に出られるらしい。
 後は大使館なり、合衆国政府なりが対応してくれるはずだった。
 
 ……だが、そこでとんでもない事が発覚した。

 それが、私の一ヶ月の放浪生活の始まりだった。

 ヘルサレムズ・ロットを出ることに『待った』がかかったのだ。
 かといって、他に救済措置はなし。
 私は、あちこちをタライ回しにされ、ついに泊まる場所さえ無くなった。

 お情けでパンを分けてもらい、頭を必死に下げて小銭を放り投げられ、犯罪者にビクビクしながら公園の噴水で身体や服を洗い、どうにか生き延びてきた。

 一ヶ月、命と貞操を守れたとか、思い返すほどに奇跡だ。

 でもその生活も限界近い。最後の頼みの福祉施設も、テロでたった今、壊滅してた。

 もう気力も体力も残ってない。

 ……疲れた。

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