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【血界戦線】番頭さんに珈琲を

第1章 連れてこられました



 執事さんが高級アパートメントの玄関に立つ。
 生体認証セキュリティが反応し、スティーブンさんの家の玄関が開いた。
 私が中に入ると、執事さんは玄関でおじぎをした。

「それでは私はこれで。お荷物はリビングに運んでおりますので」
「あ。はい。どうもありがとうございました」
 そして自動ドアがスッと閉まり、オートロックがかかった。
 
「…………」

 やっと肩の力を少し抜く。そして慣れない他人の家の廊下を歩き、広いリビングに入った。
 センサーでライトがつき、シーリングファンが回り出す。
 テーブルの上には昼間の買い物がどっさり置かれていた。

 私はドサッとソファに座り、天井をあおいだ。
 
 逃げるべき……だろうか。

 窓の外は寂しい夕暮れ時。今から安全な寝場所を探すのは少し厳しいだろう。
 対してこの家のリビングは広くて気持ちいい。

 夕刻で気温が下がってるんだろうけど、私の周囲は相変わらず春の陽気で暖かい。

 私はソファに横になった。
 まぶたを下ろすと、眠りは自然に訪れた。
 
 …………

 …………

 カシャッと音がした気がして、薄目を開ける。
 目をこすりながら、ソファから起き上がると、スティーブンさんがいた。
 後ろ手にスマホをしまうところだった。私は寝ぼけまなこでそれを見た。
「んん……」
 伸びをすると、外は真っ暗だ。時計を見ると、深夜に近い時間帯だった。やっと取り調べが終わったらしい。

「おかえりなさい」
「ただいま」

 スティーブンさんは少しだけ笑う。
 そして片手に持った紙袋をテーブルに置いた。

「またサンドイッチで悪いね。開いてるまともな店が、ここしかなくって」
 ヘルサレムズ・ロットの飲食店って、ゲテモノ料理のオンパレードだしなあ。
 彼がカサカサと紙袋を開けると、中からはコークとサンドイッチが出てきた。
「こっちはクラウスから。君のことをすごく心配していたぜ」
 うおおお! 見るからに高級パティスリーのギフトボックス!!
 開けてもらうと、中はアートのように美しいケーキだった。
 ヨダレを垂らさんばかりにケーキを見つめる私に、スティーブンさんは苦笑する。
 ネクタイを外しジャケットを脱いで、

「よし、じゃあいただくか」
「……え」
 
 その前に聞きたいこと、言いたいことが山ほどあるような。

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