第1章 連れてこられました
「ミス・ハルカ。こちらへ」
さっきの包帯グルグル巻きの執事さんが、人ゴミをかきわけ、私を車へ案内してくれる。
シルバーの高級車の後部座席に座ると、ドアが閉まる。
車はすぐに発進した。
スティーブンさんの顔をもう一度見たいと思ったけど、路地裏なのでもう見えなかった。
「スターフェイズ様のご自宅へお連れします。お疲れでしょうが、もうしばらくのご辛抱を」
「すみません……」
うなだれた。執事さんは気を遣ってか、私に特に言葉はかけてこない。
私は、考えることがいっぱいだった。
――ごめん。
――いいですよ。
一瞬だ。全てはあの一瞬。
それだけで、私を取り巻いていた緩い幸せが崩壊した。
『――ごめん』
悪党が爆弾を爆発させる数瞬前、スティーブンさんは目でそう言っていた。
目で言う、と表現すると実にあいまいだが、彼は動く気配が一切無かったのだ。
ポケットに手を突っ込み、とても冷めた目で私を見ていた。
あの目。間違いなく、あの人は私を見捨てるつもりだったのだ。
なぜ、あのタイミングで? なぜなら、それまではクラウスさんがいたから。
重きを置くクラウスさんの前では、スティーブンさんはご自分を装っているらしい。
そしてお二人は強いからなかなかピンチにならない。
だから上手く私を『見捨てる』タイミングが見つからなかったのだ。
そのタイミングが降ってきた一瞬。適当な理由を作って、スティーブンさんは私を見捨てようとした。
でも。
『――いいですよ』
何でだろう。私も私で、絶望でも憎しみでもパニックでもなく、一瞬でそれを受け入れた。
小さくうなずき、同意した。
それでお互いに終わる話だったのに。
『っ!!』
なぜか私の反応を見た瞬間に、スティーブンさんが態度をひるがえした。
発動が遅れはしたが、クラウスさんと技を連携させ、私を助け出した。
分からん。マジで意味が分からん。
小娘が邪魔なら、そこらへんのストリートに適当に放り出せばいいじゃないか。
そうでなくとも、私は記憶喪失が解除されれば家に帰れるのに。
『一週間もすれば全部終わっているよ』
『ちゃんと面倒を見るよ――最期までね』
理由も動機も一切不明だが――スティーブンさんは、近いうちに私を殺すつもりらしい。