第1章 連れてこられました
「仕方ないなあ」
スティーブンさんの身体から冷気が出る。
ホントに呪いがきかないんだなあ。私の周囲は春になるはずなのに。
「素人の呪いで無力化するような『血凍道』なら、僕は今まで生き残っちゃいないよ」
彼は私を見ずに言う。
その冷気を吐く横顔。なぜか目が離せなかった。
クラウスにつきあうというスタイルを取っているが、その目には確かに怒りの色があった。
感情を抑制するところがあるから、よく分からないけど……クラウスさんと同等、もしくはそれより怒っている。
そんな気がした。
「ミス・ハルカ。そこから動かないでいてくれたまえ!――推して参るっ!!」
「落ち着け、クラウス!! 行くぞ!」
二人対、大勢。かくして一人の少女のための壮絶な戦いが――!
「11式――ヴィルベルシュトゥルム【旋回式連突】!!」
「エスパーダ・デル・セロ・アブソルート【絶対零度の剣】!!」
「うわあああ!」
「な、何なんだ、こいつら!?」
特に始まらなかった!!
…………
それでもまあ一般人を抱えて戦ってれば、それなりにつけこまれてしまうもので。
「てめえら二人とも動くな!! このガキがどうなってもいいのか!!」
「すみません、何かすみません!」
今、悪党に襟首つかんでぶら下げられ、私は必死こいて謝ってた。
ちなみに喉元に銃をつきつけられ、失禁寸前である。
スティーブンさんとクラウスさんは大勢の敵を地面にのしたが、今は私を人質にされ動けないでいる。悪党は私に、
「けっ! ずいぶん、仲間をやられたもんだ。良い用心棒を連れてきたもんだ。
お礼にてめえはオークションの食人部門で売ってやるよ! 今夜にはどっかの金持ちのディナーで解体ショーよ!!」
止めてー。せめて、なますにしてー。
「やれやれ。いくつの協定違反に加担しているんだ。
単なるゴロツキ退治のつもりが、ババを引いたか?」
ポケットに手を入れ、呆れたように言うスティーブンさん。だがその目は決して笑っていない。クラウスさんも、
「すでに私の手の物が警察に通報をしている。間も無くここに到着するだろう。
仲間も無く、私たちに顔を見られ、もはや貴様に逃げ場はない。
あきらめて彼女を解放し、投降したまえ!」
実際に遠くの方でサイレンの音が聞こえた。