第1章 連れてこられました
…………
それは昨日の昼にさかのぼる。
そのとき、私はストリートをふらふら歩いていた。
その日も朝から警察と行政機関を何件もタライ回しされた挙げ句、最後の頼みの福祉施設に向かっていた。
心身の疲労も極限に達し、もう歩く気力はほとんどなかった。
でも立ち止まれば終わりだ。
一見、普通の街だが、ここは私がいた国みたいに安全な場所じゃない。
犯罪者はそこかしこにいる。通行人に紛れ弱った獲物を探し、常に目を光らせている。
見つかったら終わり。言うもおぞましい結末になる。
単に命が無くなるだけならまだ『幸運』。とにかくそういうことだ。
だけど、それだけ危ないのに私はこの街から出られない。
私が『元観光客』なのが紛れもない事実だとしても。
私は人ごみにまぎれ、信号で足を止める。
すると隣で、
「あれ? 何か暖かくない?」
隣の人が連れに言ってた。
「そうか? 寒いぜ?」
「いや暖かいって。コートいらなくね?」
そう言って、分厚いコートを脱ぎだした。
そのとき信号が変わり、私は先に歩き出す。
数秒後、後ろで『うわ、寒!』『だから言っただろ、アホか』というやりとりが聞こえた。
私はそれを聞き流し、どうにか歩く。もう少しで、紹介された福祉施設に行ける。
劣悪な環境らしいが、そこで何日か泊まれるという。
あと少し……あと少しで……。
「――え」
私は目的の施設前で凍りつく。そこは規制線が張られ、武装警官が警戒に当たっていた。
「行った行った! ここはテロで爆破され、捜査中だ! 公務執行妨害でしょっぴくぞ!」
武装警官が野次馬に平気で銃を向け、乱暴に追い散らす。
「あ、あ、あの、私、ここにどうしても大事な用事が……」
会話の出来そうな、片目の隠れたトレンチコートのお兄さんに話しかけるが、
「建物は全壊! 職員も大半が行方不明だ! 他を当たってくれ!」
対応は全く変わらず、横柄に追い払われただけだった。
「いやあ、いつもすみませんね。ロウ警部殿。どうやら、単なるテロのようで、では僕はこれで失礼――」
「スターフェイズ! てめえはいつもいつも、関係者でもないのにしゃしゃり出やがって!」
後ろから声が聞こえたが、私はフラフラ歩いた。