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【血界戦線】番頭さんに珈琲を

第1章 連れてこられました



「…………この先の道はちょっと嫌です」
 ちょっとどころではなく、すごく嫌。死んでも嫌。

「ハルカ。何があったんだい?」 
「いえ、ホントに何もないんです……他の道を、行きましょう」
 スティーブンさんから手を離し、目をそらした。

「ミス・ハルカ」
「……ひっ!」

 私の顔をのぞきこもうとしたクラウスさんと目が合い、悲鳴を上げ、後ろに引く。
 クラウスさんは何かを察したらしい。

「……この先の道で、あなたに何が?」

 声が低くなる。その大きな身体から、ゆっくりと怒気が立ち上る。

「いえ……その……あの……」
 私は自分で自分の身体を抱きしめ、ガタガタと震えた。
 見ようによっては誘拐されかけてる構図なのかもしれないが、通行人たちは誰も私たちを一顧だにしない。

 誰もが他人に無関心。だからこそ、羽目を外して大っぴらに犯罪に走る連中もいる。

「こ、この先の通り……飲食店が多くて、食べ残しのゴミも、よく出るんです……」

 忘れもしない。この街に放置され、大ざっぱすぎるセーフティネットから見事にこぼれ落ち、半月以上のホームレス生活を余儀なくされた日々。
 
「私、一時期、あのあたりにいて、あの辺にたむろしてた奴らに……その、誘拐されかけたことが……」

 …………

 …………

 十分後、私たちは路地裏にいた。

 ああああ! 動揺して、話したことを猛烈に後悔した。
 こんなことになるんなら、心の傷とか何とか超どうでもいいから、墓場まで持っていくんだった!!

「待って待って待って! 落ち着いて下さい! お二人とも! 私、ちゃんと逃げ切ってますから!!」

 腰にしがみつき止めるが、クラウスさんとスティーブンさんの身体から放たれる殺意は強さを増すばかりである。

 対峙する人類、異界人のゴロツキ共はニヤニヤ笑ってる。
 私から話を聞いた二人は、怒り心頭ですぐ路地裏へ乗り込んだのだ。

「まだ生きてたのかよ、チビスケ。デカい用心棒を二匹も連れて報復かぁ?」
「こんなチビでも、意外とイイもん持ってたんじゃね?」
「やっぱ売るより先にヤッとけば良かったなぁ!」
 悪党どもはゲラゲラ笑っている。私は顔を真っ赤にして、うつむいた。

 ちなみに誘拐というのはなにがしかの比喩(ひゆ)表現ではなく、マジの誘拐ですから!


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