第1章 連れてこられました
「すみません。色々あって構えるクセがついちゃって」
「外から観光に来て大変な目に遭われたそうで。ご心中お察しいたします」
クラウスさんは痛ましげに言い、
「スティーブン。ミス・ハルカはいつご自宅に戻れるのかね? 呪いだけでも解ける見込みは?」
スティーブンさんは肩をすくめた。
「手は尽くしているよ。しかしハルカは呪いの耐性が無い一般人だ。
後遺症が残らないよう、慎重にやる必要があるよ」
「了解した。私に出来ることがあれば、何でも言ってくれたまえ。スティーブン。力になりたい」
熱くも真剣なまなざしだった。
「……クラウスさん」
私はうるっとする。
こんな良い人を怖がっていたなんて!
「失礼な態度ばかり取って、すみませんでした、クラウスさん。
世の中にはあなたのような立派な方もいるのですね。闇の中に一筋の光明を得た思いです」
深々と頭を下げると、肩に優しい大きな手が置かれる。
「とんでもありません、ミス・ハルカ。
何があろうと希望を捨ててはならないのです。私は必ず、あなたのため力を尽くしましょう」
「クラウスさん……」
私たちは見つめ合い――。
「ゴホンっ!!」
かつてない低い咳払いが聞こえた。
「う……っ!」
慌てて反対側を向くと、かつてない氷のまなざしのスティーブンさんがいた。
ななななななぜ!? はっ! もしやポッと出の小娘に友人を取られた気がして面白くないとか?
いや、そんな狭量な人だったかな……いやいやいや。まさかね。
「ご、ごめんなさい。スティーブンさん」
「どうしたのだね、スティーブン」
しかしクラウスさんは『?』というお顔。
それを見てかスティーブンさんもハッとした顔になった。
「と、とにかく、一週間もすれば全部終わっているよ。
クラウスもそこまで心配しないでくれ。
僕は自分の為すべきことを忘れてはいけないんだ。
思い出させてくれてありがとう、クラウス」
ううう。何という頼もしい言葉! クラウスさんも、
「うむ。頼んだぞ、スティーブン。ミス・ハルカを必ずご両親の元へ送り届けてほしい」
スティーブンさんも曇りの無い笑顔で言う。
「任せてくれ。ちゃんと面倒を見るよ――最期までね」
独り言のように呟いた言葉は、よく聞こえなかった。