第1章 連れてこられました
値札を見ずに購入決定し、レジではカードをスッと出すだけ。
最初は『数日しかいない客のため一式買うとか、富裕層ってスゲー』くらいの感覚だったが、買い物が進むにつれ、恐怖の度合いが増してきた。
買いすぎてる。いったい、どれだけ買うんだ。
明らかに長期滞在を想定した買い物内容だった。
スティーブンさんは、高級ブランド店のウィンドウディスプレイを見ながら、
「さすがに夏服は気が早いか」
独り言のようにボソッと呟く。私は横で凍りついた。
「……あ、あの……私、そこまでいる予定は……それに私の周囲はいつも温かいし」
ガタガタと震えながら言うと、
「ん? もちろんそうだよ。でも常春の呪いも、いつ解けるか分からないし、ここじゃ気候もコロコロ変わって、すぐ夏になったり冬になったりするからね」
「そ、そうですね……」
「そうだよ」
ホッとした。変な勘違いをした自分が恥ずかしい。
……しかし『言いくるめられた』感がないでもない。
スティーブンさんはまだウィンドウを見ていた。アゴに手を当て真剣に、
「うーん……やっぱり買っておくかなあ」
なぜ当の私より、あなたが真剣に悩む。
それにその美女マネキン、私より等身が上なんですが。
「?」
そのとき、私たちの近くで車が停まった。
大きなシルバーの車だ。変わった形をしてて、高そう。
どんな人が乗ってるんだろうと、何となく見てた。
でもすぐには降りてこない。
「ん?」
運転席から執事さんっぽい人が出てきた。包帯で顔がグルグルだ。
この街のあれこれで大けがをしたのかなーと気の毒に思ってると、その人が後部座席を丁重に開ける。
おお、お抱え運転手さん? すごいなー。
……え?
中から出てきた人が、まっすぐこっちに来た。
そして笑顔で、
「スティーブン!」
するとスティーブンさんも振り向き、彼も笑顔で、
「おお、クラウス! 奇遇だなあ!!」
「先日は無理をさせてすまなかった。その後、体調に問題はないかね?」
「はは。丸一日寝てしまったよ。こっちこそ、家に来てくれたのに寝ていてすまない」
二人は親しげに肩をたたき合っていた。