第6章 悪夢の外伝
スティーブンさんが変だ。グラスを持つ手も、かすかに震えている。
「どうした、スティーブン。顔色が悪いようだが」
クラウスさんは心配そう。
私はもっと撫でてもらおうと、鼻でクラウスさんをちょんちょんとつつく。
パリンっ!!
「スティーブン!?」
思わず立ち上がるクラウスさん。
スティーブンさんの手の中でグラスが割れてた。
「どうしたのだ!? す、すまない、私が君の時間を邪魔してしまい――」
「いや……君のせいじゃないんだ……」
なぜ親の敵でも見るがごとく私を見る。
今の私は、ごくごく無害なハリネズミですよ?
「ミス・ハルカ。どうしたのですか?」
私が丸まったもんだから、クラウスさんは私にも気を取られる。
スティーブンさんは咳払いし、
「クラウス。ハルカが落ち着かないようだ。床に下ろしてやってくれないか?」
「あ、ああ、分かった」
クラウスさんは顔に疑問符を浮かべつつ、私を手に乗せ、優しく床に下ろした。
その光景を、なぜか食い入るように見つめるスティーブンさん。
でも私は床に下ろされても、クラウスさんの周りをちょろちょろ。
木の幹のごとき足を一周したり、靴の上に乗ってズボンをよじ登ろうと前足でガシガシしたり。
「~~~~~!!」
その光景を見ながら、なぜか頭をかきむしるスティーブンさん。
クラウスさんはオロオロし、
「す、スティーブン、やはり何かの病では? 今すぐブラッドベリに――」
スティーブンさんは手にウィスキーの瓶を持ったまんま、
「いや本当にいいんだ……だが少し気分が悪いかもしれない。
横になれば治ると思う。君には本当に申し訳ないと思っているが、帰ってもらえないか?」
「いや私こそ――」
「いやいや僕こそ――」
私はあくびをし、クラウスさんの靴の上に丸くなった。
「スティーブン!?」
ウィスキーの瓶が砕け散る音がした……。
…………
…………
私は部屋の壁にぴったり身体をつけ、怯えていた。
その前でしゃがみ、独り言を言う危ない男。
「そうだ。カラクリが分かれば簡単だ……上から触るのがダメだったんだ。
下から持ち上げれば、ハルカは怖がらず僕に針を立てないんじゃないか」
ブツブツブツ。
私は怖くて、全身の針を立てていた。