第6章 悪夢の外伝
そしてヴェデッドさんも帰り、二人きりの時間になったが。
「『どこまでもついてきて』……『まさか』……『とんでもない』……」
スティーブンさんはブツブツ言いながら、スマホを構えてる。
私は針を立て、『目の前のハリネズミ』にフシュッフシュッと威嚇中。
何だこのハリネズミ! 生意気なツラしやがって!!
「ハルカ~。それは鏡の中の君だぞ?」
無表情に、スマホで私を撮りながら言うスティーブンさん。
わたくし、ハッとして慌てて毛を逆立てるのを止めた。
よく見たら床に置かれた鏡だ! そ、そんな!
オロオロして一回転し『そんなこと最初から知ってましたよ、エサを探してただけですよ~』という感じを装う。
すると誰かが噴き出す声。
「何だ、やっぱり僕の声が聞こえてるんじゃないか」
私に触ろうと上から手を伸ばす恋人。私はやっぱりビクッとして丸くなる。
その私を、やはりスマホで撮るスティーブンさん。
「……いや違う。こういう系は求めていないんだ」
苦悩する声とともに、スマホを置く音。
「ハルカ。ソファで一緒にクッキーを食べよう」
『クッキー?』とチラッと上を見ると――緊張しきった顔で、上から恐る恐る手を伸ばしてくる男。
「痛! だから何で針を立てるんだ。僕が何もしないって分かってるだろ!?」
逆ギレされかけたとき、インターホンの鳴る音がした。
スティーブンさんは真顔になる。
だが来客を確認すると、すぐ表情を和らげた。
「クラウスか、入ってくれ」
…………
クラウスさんはすまなそうに入ってきた。
「スティーブン。夜分にすまない。所用で寄らせてもらった」
「いいよいいよ。ついでだから何か飲んでいけよ。座っていてくれ」
「ありがとう」
親友の来訪に機嫌を直したスティーブンさん。酒を出すため、キッチンに向かう。
勝手知ったる親友の家。クラウスさんもソファに座ろうとし――部屋の隅にいる私と目が合った。
「おや?」
…………
ウィスキーと氷を持って来たスティーブンさん。またも剣呑な表情だった。
「……クラウス。ハルカは君に迷惑をかけなかったかい? 針を立てたりとか」
「まさか、とんでもない!」
私はクラウスさんの膝で仰向けになり、お腹をコチョコチョされご機嫌であった。