第6章 悪夢の外伝
翌朝。
「あらあらあら、この子がお嬢様ですか?」
ハウスキーパーの異界人、ヴェデッドさんは驚いたようだった。
私はケージの中ですぴすぴ寝ていた。
スティーブンさんは、優雅に朝の珈琲を飲みながら、
「数日で元に戻るらしい。一見ハリネズミだが中身はハルカなようでハリネズミだから、食べ物以外はそっとしておいてやってくれ」
「それはどちらなんでしょう、旦那様?」
ヴェデッドさんのツッコミ来た。
「それじゃ、行ってくるよ。ハルカ――痛っ!」
上から触られそうになり、私は問答無用で針を立てる。
「まあまあ」
横で見ていたらしいヴェデッドさんの声。
スティーブンさんがゴホンと咳払いする音。バサリと背広を羽織る風。
「ま、まあこんな感じなんだ。絶対に触らずほっておいて構わない」
「かしこまりました。いってらっしゃいませ、旦那様」
軽快な靴音――バタン、と遠くでドアがしまる音。
…………。
「さて、と」
お仕事始めますモードなヴェデッドさんの声。
「あら? お嬢様?」
と、ヴェデッドさん。
私はケージの壁をカシカシかいて、『出して~』アピールしていた。
…………
…………
外は夜である。
帰ってきたスティーブンさんは、ネクタイを外しながら、明らかに不機嫌。
「何だ、ヴェデッド。『それ』は」
ヴェデッドさんは慌てたように、
「も、申し訳ありません、旦那様」
「いや怒ってるわけじゃないよ。何でハルカがエプロンの中にいるんだい?」
ん? スティーブンさん、ヴェデッドさんをいじめてるの? 許さないぞ!
私はエプロンのポッケの中でごそごそと身体を動かし、ちょこんと頭を出した。
そこには背広を脱ぎ、不穏な表情で私を見る恋人。
「お嬢様が外に出たいご様子でしたので、安全な場所でお散歩していただこうと思ったら、今度はどこまでも私についてきて……」
で、困ったヴェデッドさんはエプロンのポッケに私を収納。そのままずっと一緒。
休憩時間も一緒にお菓子を食べたりして、とても楽しかった。
「……針を立てられなかった?」
「まさか、とんでもない!」
「ふむ。『まさか』……『とんでもない』、ねえ……」
機嫌が急降下するスティーブンさんでございました。