第6章 悪夢の外伝
そしてスティーブン邸に戻った私たちだった。
「ともあれ君が無事で良かった」
スティーブンさんは腕組みし、咳払い。
「君も一刻も早く元の姿に戻りたいだろう。だから僕の言うことを聞き――なあ、ハルカ。聞いているのか?」
ハルカさん、クッキーをかじるのに忙しい。
ちなみに私がいるのは、私設部隊の皆さんが用意して下さったハリネズミケージである。
水飲みに回し車、赤い屋根の可愛いおうちつき。
「ハルカ?」
ハリネズミに大真面目に話しかけるという状況に耐えられなくなったのか、そーっとケージの真上から覗き込む恋人。
「これ、本当にハルカなんだよな」
そう言うと忙しくクッキーをかじる私に、頭の真上から――。
「痛っ!」
逆立った針に触れてしまい、手を引っ込めるスティーブンさん。私は怒って丸くなっていた。
「ハルカ。僕だぞ?」
分かってるけど、こっちはご飯中。それに頭の上から触らないでよ!
「ハルカ~」
スティーブンさんがコンコンとケージを叩くが、私はしばらく丸まっていた。
「……ま、いいか。とにかく君は間違いなく僕の大切なハルカなんだ」
わ! ケージが揺れた!! スティーブンさんが持ち上げたらしい。
そしてスティーブンさんは寝室に移動。ケージはサイドテーブルに置かれた。
恐る恐る周囲を見ると、恋人がベッドに横になり、私を優しく眺めていた。
「早く戻ってくれよ、ハルカ。それまではせめて同じ部屋で寝よう」
優しい笑顔。前に子犬になったとき以上に、今の私たちは意思疎通が出来ない。
でも出来る限り、私を人間扱いしてくれる。
そんな優しい恋人。
「おやすみ、ハルカ」
ライトが消えるのを感じながら、スティーブンさんに申し訳なく思った私だった。
カラカラ。
「……」
カラカラカラカラ。
「………………」
カラカラカラカラカラカラ。
ライトがパッとついた。
元気よく回し車を回していた私。ビクッとして針を立てた。
すると、目の下にクマを作ったスティーブンさんが、ケージを持ち上げ、
「…………本当にすまない、ハルカ。
うるさいから、やっぱり別の部屋で寝てくれないか」
ハリネズミは夜行性☆