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【血界戦線】番頭さんに珈琲を

第6章 悪夢の外伝


■ハリネズミになった話


「……それは、本当なのか?」

 大好きな大人の恋人の声がし、私は目を開ける。
 ここはどこだろう。
 眠りから覚めると、私は大きな布に包まれていた。でも状況が分からず不安で、私はとりあえず丸くなる。
 
「そんな……そんなことが……」

 感情を必死で押し殺そうとしている。
 でも殺しきれない感情が、深い深い悲しみを喉にあふれさす。
 そんな痛ましげな声。

「申し訳ありません。ハルカ様は我々を庇い、敵の光線を浴びてしまい――」

 こっちの声は、スティーブンさんの私設部隊の人。
 私の同僚かつ、とりあえずな上司にあたる男。黒衣の怜悧な青年、黄(ファン)さんである。
 黒なのに黄とはこれいかに。という内なるツッコミはさておき。

「で、それが……『彼女』か」
「はい。この布の中に――」

 ん? 私を取り巻く布がガサッと動く。私はビクッと警戒した。
『敵に攻撃されるかも知れない。絶対動くな丸くなれ』と、本能の告げるまま、一切の動きを止める。

「小さいな」

 自虐的に呟くスティーブンさん。

「元々小さい子だったけど……こんなに小さく……原形を留めない姿になって……」
「…………。ええ、確かに原形は留めておりません。ですが――」
 
「その先は言わなくていい。彼女だって頭の良い子――でも無い気がするが、分かっているさ」
 いや待てコラ。私は『針』を立てた。

「こんな男の恋人になる危険性は十分説明したんだ。
 ハルカだってこの結末を迎える覚悟は出来ていただろう――もちろん、僕もな」

 ??? 何で私の名前が?

「もういい。少しの間、一人にさせてくれ。『これ』は僕が『処理』する」
「お待ち下さい。もしや誤解を――」

 んん? スティーブンさんが、黄さんと愉快な会話をしている気もする。
 だがスティーブンさんはこの世の終わりのように、どんよりした声だった。

「誤解でも何でもない。現実は見えている。『これ』はもう、『ハルカだったモノ』だ」
「その言い方は間違っておりません。ですが――」

「なら十分だ。渡してくれ」
「…………はあ」

 気のない返事とともに、私を包んだ布が誰かに渡される。

「…………ハルカ……。すまない……!」


 誰かがすすり泣くような声がした。


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