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【血界戦線】番頭さんに珈琲を

第6章 悪夢の外伝



 恋人は、春風のような爽やかな笑みだった。
 ここまで鳥肌の立つ笑顔を私は見たことがない。

「では、私はそろそろ寝――」

 ドンっ!

 壁ドンされた!
 ただし手ではない。靴で!!

「僕は君に対して、君が期待する寛大な恋人として振る舞おうとしているつもりだ」

 不良中年がゆっくりと足を下ろしながら威嚇してくる。
 パラパラと建材が剥がれ落ちる音がした。

「え? 寛大? どこが――ふが」

 言う前に口をふさがれる。
 ドンッと背中を廊下の壁に押しつけられ、ギリギリと口に手をねじこまれる。
 痛い痛いってば!
 あとせっかく中和してあげたのに、また室温下がってるし!!
 
「しかし君は毎回、まるで狙ったように僕を怒らせるな。
 どうすれば、この子猫は僕の言うことを聞くようになるんだろうなあ?」

 スティーブンさん、笑顔である。おっそろしい笑顔である。
 私は素直で聞き分けの良い子猫ちゃんですよーと、混ぜっ返したくとも口がきけぬ。

「君が言いたいことは分かる。自分はいつでも聞き分けの良い子猫だと言いたいんだな」
 えー、なぜ私の考えていることが!?

「分かるに決まっているだろう? さあ、おしおきだ。バスルームに行くぞ」

 やっと口から手が離れ、また私はずりずりと引きずられていった。
 バスルームでおしおき……考えられることは一つ。

「ふ。スティーブンさんの考えていることくらい分かります。風呂場で私を拷問しようというのでしょう?
 しかし私を水責めにしようとしても無駄なこと。私は春の能力者、すぐに水温を上昇させてみせましょうぞ」

「君は僕に対して抱いてる、歪んだイメージが未だ直らないようだな。
 どうせ明日は僕も休みだ。今夜は眠れると思うなよ」

「もう年なんだから、そんな無理をされずとも――」
「ハルカ~?」

 やばい。繊細なお年頃だから年齢ネタは地雷なんだっけ。
 利口なわたくしは、瞬時に媚びた笑みを作り、スティーブンさんの腕にしがみついた。

「優しくしてください♪」
「遅い」

 指で額をはじかれた。いったあ!!

 そういうわけで、風呂場に連行された私であった……。

 
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