第6章 悪夢の外伝
前略。自由を手に入れました。
「といっても、何をしますかね」
私はリビングで腕組みし、悩む。
行きたい場所、食べたい物、やりたいこと――うーん、ありすぎて悩む。
だがしかし……。
「やっぱり、私が家にいないって分かったら心配させちゃいますよね」
スマホの位置情報で居場所はバレバレだ。
でも定時連絡は絶対だから、スマホを置いて家を出ることも出来ない。
優しい年上の恋人の顔を思い浮かべる。
私が勝手に家を出たら心配させてしまう。
今はライブラで仕事をしているとはいえ、完全に新人なのだ。とても安心させられるレベルではない。
失望されたくない。悲しむ顔は見たくない。
大好きなスティーブンさん。
心配をかけたくない。
ならどうすればいいのだろう。
…………
私の目の前でアパートのドアが開く。
「そういうわけで、遊びに来ました。お兄ちゃん♡」
「帰れよっ!!」
涙目の陰毛頭……コホン、お下品でした。レオナルドお兄ちゃん。
「スティーブンさんがまた俺の家のドアを破壊――君のことを心配するだろ!!」
出た。先に本音が出た。
「ご安心下さい。心配をかけないようGPS偽装をしてきましたので」
今どきはGPS偽装アプリというものがあって、外に出ていても家にいるかのように位置情報をごまかせるのである!
「気遣いの方向性っ!! いいから帰れっ!!」
「まあまあまあまあそう言わずに!!」
閉まりかけたドアの間に滑り込み、無理やりに室内に入り込む。
レオナルドさんはTシャツに短パンと、完全に休日スタイルであった。
敵が室内に侵入したことに絶望を隠さず、
「本当に帰ってくれよ! 君が遊びに来ると俺がスティーブンさんに怒られるんだよ!!」
「ちなみにレオナルドさんと私はひょんなことから出逢いました。
以来、レオナルドさんは私を妹同然に思って可愛がって下さっているのです」
「誰に説明してるんだよ!! 思ってないし! ミシェーラと全然違うし! 迷惑しかかけられてないしっ!!」
どうにか私を追い出そうとするレオナルドさん。
だんだんと容赦なくなってきたなあ。
まあ上司にドアを何度も氷漬けにされてりゃ、冷たくもなるか。