第1章 連れてこられました
「…………」
ずいぶんと沈黙があった。
私はやっとありつけたサンドイッチを、ご機嫌で頬ばる。
飲み物も相変わらず常温だけど、今はそれが気にならないくらい美味しい。
何せほぼ一日、絶食状態だったのだ。
「……勝手に食べ物をあさって良かったのに」
「キッチンは出入り禁止にされてますし。そうでなくとも、私が入ったら冷蔵庫の中の物、全滅じゃないですか」
私の周囲は遮蔽(しゃへい)物関係なしに、常に春の気温になる。どんなものも、一瞬で解凍され常温になってしまうのだ。
「じゃあ、僕を起こしてくれればいいだろう」
「やっと熟睡出来た人を起こせるワケないでしょう」
「…………すまない」
スティーブンさんは、あれから丸一日爆睡した。
その後、起きてシャワー入った。無精ひげ剃った。着てるものを全部着替えた。
かくて完全回復。
そこで日付が一日進んでることに気づき、真っ青になったのである。
私相手に起こした数々の醜態は、完全に覚えていらした。
今はソファに座って片手でご自分の顔を覆い、自己嫌悪の渦中にあられるようだ。
「お疲れでしたし、仕方ありませんよ」
私は、食後の手作りチョコチップクッキーをつまむのに忙しい。
スティーブンさんにつきあわされ、こちらも丸一日寝て熱が下がり、完全回復だ。
……『これでやっと、まともなスティーブンさんと会話が出来る』とか思ってないですよ?
「ありがとう。でも疲れていようが何だろうが、最低限のラインはある。
クラウスの来訪にも気づかない始末だし。後で奴の誤解を解くのにどれだけ苦労したか……あいつが重要案件を持って来たんでなくて本当に良かった。でなければ、僕を寝かせて、自分一人で行ったぞ、あいつは……」
後半は私に向けた言葉ではなく、完全にグチである。
誤解って何なんだ。
あと落ち込み順位が『寝不足で客に超絡む<客のベッドで客をハグしつつ爆睡<<<クラウスの来訪に気づかなかった』になってるっぽい。
この人の思考におけるクラウスさんの割合って、どれだけなんだ。
「クラウスさんがいらしてただなんて、私も全く気づきませんでした。ぜひお遭いしたかったですね」
花束は今も、きれいに花瓶に飾られている。
ちなみに私の中でのクラウスさん像は、スラッとしたスティーブンさん似のイケメンである。