第5章 番頭さんに珈琲を
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×年後。
ここはヘルサレムズ・ロットの中でも特に治安の悪い一角。
今、私がいるのはどこぞの違法建築ビルの地下である。
「死ねや! 小娘があああ!!」
今、凶暴な顔をした異界人が、私に向かって人の身長ほどもある大なたを振りかぶった。
このままでは一刀両断必須!
けど私は慌てず騒がず、スッと異界人の服に手を触れる。
「症例『春眠暁を覚えず』」
「な……え……?」
敵は目を見開く。あらがいがたい眠気が襲ってきているからだ。
「なんで……」
異界人であろうと睡眠によって休息する生物なら、睡眠欲求に太刀打ち出来ない。
「畜生……クソアマ……」
もはや武器をつかむ力もなく、異界人の敵はよろめいた。
「念には念を入れ、十徹分の眠気を入れました。ゆっくりおやすみ下さい」
異界人は私の前に倒れ伏す。だが敵はそれだけではない。
「てめぇが触らなきゃ敵じゃねえんだよ、ガキがあっ!」
今度は人間だ。ヤ○ザみたいなオッサンが、背後から私に斬りかかろうとした。
私は軽く振り向き、
「症例『低体温』」
「が……っ……」
全身の体温を一瞬のうちに十五℃にされた男は、瞬時に心肺機能を停止させ、その場で絶命した。
「すみませんね。触れられたら、睡眠で済んだんですが」
でも『この先起こる事』を思えば一瞬で死んでた方がまだマシだったかな。そう思いながらガレキの中を行く。その先に、
「エスメラルダ式血凍道――アグハデル セロ アブソルート【絶対零度の小針】!!」
スティーブンさんだ。襲いかかろうとした『敵の男』を難なく凍結させていた。
だがそれで終わりでは無い。
「ハルカ」
「はい」
私はスッと近づき、今しがた凍結したばかりの『敵』に触れ、
「症例『0秒解凍』」
あっという間に解凍した。一応四肢だけは凍らせたままで。
すごいでしょ。×年の間にこれだけ成長したんですよ? 私。
「ら、ライブラめ……くそ……」
『敵』は、私とスティーブンさんを目だけで殺しそうな視線で睨みつけた。
だが殺意と裏腹に顔は黒ずみヤバい色。ゴホゴホと苦しそうな咳もしている。
「お、お、俺の体に何をしやがった!!」
スティーブンさんは冷酷な目だった。
いっそ見とれるほどに。