第5章 番頭さんに珈琲を
妙な感触に目を開ける。
「ん?」
大きな手がパジャマの襟元から、私の胸もとに入ってる。
「スティーブンさん。寝ましょう。極めて健全に」
「ダメ」
「大人でしょう、スティーブンさん。耐えて下さい」
いやいやと首を振るが、
「君の前では子供でいたいかな」
こんなデカいガキ、いらんわ。
だが敵は着々と私のパジャマのボタンを外してくる。
「あんなことを言われて我慢出来る奴がいるわけないだろう?」
「手をつないで仲良く寝るもんでしょう。性欲に直結するなど」
『んま!』と袖を口元に当て、はしたないと嘆く。
「じゃあ僕がやるから君は何もしないでくれ。天井のシミを数えている間に終わるから」
「いや絶対終わらないし、シミのある天井じゃないし!」
しかし、どう抵抗しようがスティーブンさんのペースなのである。
もみあってるうちに話し声は笑い声に変わり、艶めいた愛の言葉になり……そのうちにまあ、本能のままの声になる。
「愛しているよ」
眠りに落ちる寸前に優しい声。
明日明日。
明日こそ振り回してやろう。
明日になれば、もっとたくさん色んなことを頑張ろう。
家事なんかもやっていって、いつか仕事にお疲れの番頭さんに珈琲を入れられる、可愛いお嫁さんになるのだ!
きっと出来る。やれる。
だって、私には世界一素敵な恋人がいるのだから。
「スティーブンさん、大好きです」
精一杯の愛をこめて、抱きしめる。
微笑んで私を抱きしめる人の答えは、いつだって決まっている。
大好き。ずっと離れない。
いつまでも! ずっとそばにいる!
『番頭さんに珈琲を』
――HAPPY END!