第5章 番頭さんに珈琲を
「スティーブンさんは私に何もさせてくれないのが不満です」
「え? させてくれるだろう? この前だって嫌がりつつ、僕が贈った下着を――」
「そういう話じゃないっすよ!!」
この前って、アレか! あれは下着というか『ほとんどヒモ』だったっ!!
屈辱と羞恥にブルブルしつつ涙目で来たところ、敵の加虐心を刺激したらしく、いつもより盛り上がられ――いや、どうでもいいわっ!!
あと変な気分になってきたのか、ケツを撫でてきてるしっ!!
常にスティーブンさんのペースなんだから。
「私も……もう少しスティーブンさんを振り回してみたい」
いつもスティーブンさんの手の中だ。先回りされ、甘やかされ、なかなか上手く行かない。
するとスティーブンさんは目を丸くし、フッと笑って私にキスをした。
「僕は出会ったときから、ずっと、君に振り回されているよ」
「馬鹿な」
しかしスティーブンさんは私を抱き寄せる。
「クラウスからも笑顔が増えたと言われたよ。君といると毎日が楽しい。
どんな君も、大好きだ」
「マジか」
「もう少し色気のある返事をしてくれないかな?」
いや精神攻撃から、いきなりストレートに来られると……。
「生意気なところも、すぐ照れるところも、僕のために頑張ろうとしてくれているところも、気持ち良くてすぐ泣くところも、君の全てが――大好きだ」
あの……変なのが一個混じってませんか?
だけど私はアイデンティティを放棄し、スティーブンさんの傷に手を伸ばす。
「……私はあんまり頭が良くないから気の利いたことが言えないけど……」
息を思い切り吸って、
「愛してます。あなたの全てが好き。それだけは命にかけて誓います」
「どこが頭が悪いんだよ」
これ以上にないくらい私を強く抱き寄せ、それは愛おしげに、嬉しそうに、
「何よりの愛の言葉だよ。ありがとう、ハルカ」
私の手を取って、
「これからもずっと、僕のそばにいてくれるね。いや……嫌だって言ってももう離さないからな」
選択肢がない!
しかし観念した。捕まってしまったのだ。
もう二度と離れない。離れられない。離してもらえない。
私は生きる。この街で。
スティーブン・A・スターフェイズの元で。
ずっと、ずっと。