第5章 番頭さんに珈琲を
「続きは明日にしよう。ベッドまで運んであげるよ、王女様」
「不必要に優しくしないで下さい! みじめになるから!!」
叫んだが敵は私をお姫様抱っこした。哀れみの目で。
「よしよし。そこまでパソコンが苦手だったか。無理させてごめんよ。
どうしてもPC作業が苦手なら他の部門を考えるから心配しなくていいよ」
「違うー! 私はスティーブンさんに珈琲入れたいのー!! あと諦めないでー!!」
『ツッコミをしない』という最大級の精神攻撃をどうにか流し、私はジタバタする。
でもスティーブンさんは慈悲をたたえた笑みで、私を大事に大事にベッドに運ぶ。
「そうだ! なら、どんなにパソコン操作が苦手な奴でもパソコンが得意になるおまじないを教えてあげよう」
「結構です」
「『パソコンが使えるようになればアダルトサイトが見れ――』」
「オッサンのモチベーション術かっ!!」
変なサイトを開くと即、ウィルスに感染するから、絶対しないように。
「そうかい? 顔が赤いぞ? 一緒にエッチな動画でも見るかい?」
「え!?」
い、いや、私は女だから興味ないし!
別にスティーブンさんの身体で満足だし!
お、『大人』のフルコースは堪能したんだから、今さら新しい境地を切り開こうとは思いません!
「たまには趣向を変えるとか……もちろん『フリ』だけど、ちょっと無理やりっぽくやってみるとか」
新しい境地……いいかも。
スティーブンさんは私をベッドに寝かせると、ボフッと布団をかける。
「ま、それは次の機会にでもやろう」
「ひどいー。スティーブンさんの意地悪ー」
でもスティーブンさんはそのまま私の隣に横になり、あくびをした。
今日はホントに何もせず、このまま寝るらしい。
部屋の灯りが落とされ、私は、苦笑するスティーブンさんの胸でしくしく。
「でも、さっきは嬉しかったよ」
「へ?」
髪を優しく撫でられ顔を上げた。
「途中の文言はさておき、君が僕のために珈琲を入れたいと言ってくれたことがね」
時間差ツッコミとは、スティーブンさんのくせに高等技を!! スティーブンさんのくせに!!
「……人の話を聞かず、失礼なことを考える癖もいい加減に直そうな、ハルカ」
「いだだだだだ!!」
なぜ私の脳内を見通せる!
私はスティーブンさんの胸にすりすり、顔をこすりつける。