第5章 番頭さんに珈琲を
「この家にも……敵が入り込んだことがある。それは僕が油断したからだ。だが、同じ事がまた起こらないとは限らない」
そういえばこの家で、クラウスさん以外の客を見たことはほとんど無いなあ。
オンでもオフでも、それだけ油断が出来ないのだろうか。
張り詰めて張り詰めて、限られた友人にしか心を許せなくて。
……私、そんな『常時警戒心MAX』な人のふところによく入れたなあ。
「何を考えているの? ハルカ。怖がらせた?」
スティーブンさんが少し優しい声。
「いえ、私がいかにすごい人間か、思い起こして――いだだだだだっ!!」
「何でそんな話に飛躍してるんだ! あと手が止まってるっ! 早く続きをやりなさい!!」
えー!? い、いや、さして飛躍はしてないんだけど!!
グリグリを止めい! いい加減に頭蓋骨が砕け散る!!
さすがに大人げないと思ったのか、スティーブンさんは咳払い。
「……まあそのうち一緒にはなりたいし、そのときはさすがに公表するよ」
え。
『一緒になりたい』って言った?
そういえばヴェデッドさんには、そのうち結婚するかも~みたいなことを言ってたって言うしっ!!
「そのうちにね。ほらまた手が止まってる」
後ろから頭をこづかれた。暴力だ~。
「あの、そ、そ、それ、い、い、いつ……ごろ、なんですか……?」
顔を真っ赤にして振り向くが、
「まず君がちゃんと大人になること。その上で僕がいなくても、自分の身は自分で守れるくらい強くなってからだな」
顔に手を当て、真面目なお顔。
……ハードル高くね? スティーブンさんが大丈夫だと太鼓判押すくらいの強さってどんだけのレベルだ。
「私、子供じゃないですよ?」
身体だって、もうちょっと大人になってきたのになあ。
スティーブンさんがクスッと笑って拳でこづく。
「子供だよ、まだまだ」
…………。
もう少し大人になって。
今は『見ないフリ』をしているものをちゃんと見れるようになれたら。
スティーブンさんが自分からは決して明かさない、彼の『闇』の全てを受け止められたら。
そう。私は知っている。スティーブンさんも知ってる。
お互い口にしないだけ。
私はスティーブンさんの暗い秘密を見ている。
忘れたふりをしているだけだ。