第5章 番頭さんに珈琲を
「ほら、ブラインドタッチ用のゲームソフトをDLしたからやってみて。
クリアしたら主人公のレベルが上がるぞ」
「うう、そんな子供だましにだまされないです~」
でも睨まれて、ちゃっちいグラフィックの主人公をポチポチ操作する。
こういうの、昔やったはずなんだけどな~。
スティーブンさんは私の慣れない手つきにため息。
「最近の若い子はパソコンも使えないのか? 全く……」
来た。スティーブンさんのオッサン発言来たよ。
「す、すぐ覚えてみせますよ。なんてったって若いですから!」
「ああ? そうだなあ。悪知恵だけは働くからね、君は!」
頭グリグリされる!痛いって。DVですって!!
そんな感じでここ最近、帰宅後にスティーブンさんのスパルタを受けてます。
「どうだい? ライブラの他のメンバーとは上手くやってる?」
こら肩に手を回すな、鬼教官。
「ええ。皆さん、とても親切にして下さってます」
嘘ではない。レオナルドさんは相変わらずお兄ちゃんみたいに気にかけてくれるし、紅一点のチェインさんとも良好だ。
とはいえ、一日中、スティーブンさんと他人のフリというのも、たまにキツイときがある。
私たちは出勤も帰宅もバラバラ。
私は家具一式用意された偽のアパートを用意されていて、そこから出勤し、そこに帰宅する。
アパートの中には私しか認識出来ない魔方陣があり、それがスティーブンさん家の私の部屋につながっているのだ。
ヘルサレムズ・ロットの超技術すげー!
……でも。
「私たちの仲、公(おおやけ)にしちゃマズいんですか?」
「…………」
不倫じゃあるまいし。ここまで徹底して秘密にする必要があるんだろうかと思うのだ。
構成員同士でつきあってるなんて、よくある話だろう。
私の手はもう止まっていた。
スティーブンさんは言った。
「……まだ、怖いんだ」
「何がです?」
するとしばしの『間』の後に、
「僕とつきあってることで、君に危険が及ばないか」
「…………」
「ライブラは、その情報が億単位で取引される秘密組織だ。
諜報員を送り込もうとする敵対組織は引きも切らない。
信頼出来るメンバーでさえ、洗脳や脳操作で裏切りに転じることもある」
そう言って、大きな腕で私を抱きしめた。
何か辛いことを思い出しているように。