第1章 連れてこられました
「うーん……」
スティーブンさんがまた寝返り。いい加減に起きそうだ。
でも疲れた顔してるし『五徹』だって言ってたし、まだ寝るかなあ。
それにしても、寝る前にシャツくらい脱がせとくんだった。
高そうなシャツなのに、完全によれよれになってる。
まあ私もへとへとだったし、大人の男性の服を脱がすなんて無理だから仕方ないか。
しかし……昨日は暗くてあまりよく見てなかったけど、目元の傷にタトゥー。しかも青シャツ。
ネクタイ締めてるけど、絶対カタギじゃないだろう、この人!
きっと起きたら殺されるんだろうなあ。
……今のうちに逃げるべき?
私は困って窓の外を見る。
夜明けのヘルサレムズ・ロットは今日も霧に包まれていた。
ていうか、お腹すいたなあ。
次の行動を決めかねていると、声がした。
「ヴェデッド……カーテン、閉めてくれ……あと、新聞……」
眠そうな声がした。ヴェデッドって誰だろ。スティーブンさんの嫁さんか愛人さんか?
でもこの家、他に人の気配はないけど。
「カーテン閉めたら新聞読めないでしょうが。どっちかにして下さいよ、ミスター」
「それも、そうだね……」
声が少し笑う。スティーブンさんは薄目をゆっくり開け、
「それにしてもヴェデッド、今日は少し辛辣(しんらつ)……じゃ……」
親しい者だけに向けるだろう笑顔が、私を認識するにつれ、みるみる強ばっていく。
「……誰だ?」
一晩、無防備な寝顔さらしといて、今さら警戒心むき出しな声を出されてもなあ。
「昨晩、あなたに拉致された者ですが」
「……は? 僕が?」
急にそんな、きょとんとした顔をされても。
「覚えてませんか? ほら、昨日公園で会ったでしょ?」
スティーブンさん、ベッドに座り、眉間にしわを寄せて何かを思い出そうとしている。
「あ……っ! 君、昨日の……!?」
やっと思い出したらしい。
『そっか、君、行く場所が無いんだ。じゃ、僕の家に来る?』
「あれ……僕の夢じゃなかったのか……」
呆然としてる呆然としてる。
徹夜ダメ、絶対。