第5章 番頭さんに珈琲を
「わ!!」
スティーブンさんが大きくハンドルを切る。
車が突然角を曲がり、ガラスに頭をぶつけそうになった!
「ちょっと! 危ないですよ!! どこ行くんですか!!」
「ホテル」
「はあ!? 家までもう少しじゃないですか!!」
けどスティーブンさんは冷たく、
「待てない。というより君に今すぐ思い知らせたい」
「な、何をです?」
敵の声にこめられた冷気に怖じ気づく。
「僕がいつか君を捨てるという――その失礼すぎる思い込みが間違っているということを、ね」
「え。ええ~。でも――」
「黙れ」
「あい」
待て待て待て!
さっきまでの冷静沈着とはほど遠いパニックぶりと、年齢差を気にする小心はどこ行った!!
だが車は停まらない。あ、いや停まった。結構高そうな、一見すると高級ホテルにしか見えないようなとこの駐車場で停まった。
「スティーブンさん、謝りますから~」
「いいから黙れ。今日は一晩かけておしおきをしてやる」
「殺生(せっしょう)な~!!」
抵抗したが、ズルズルとフロントに引きずられていく私だった。
その後は……まあ詳細を知りたいだろうが、別の機会に。
徹底的に『いじめられた』としか言いようがない。そう、それは徹底的に。
お互いの誤解を解き、絆を確かめ合うための一夜だと思っていたが、最終的に、
『すみませ……もう、二度と、逆らわない、からぁ……いじめ、ないで……あ……っ!!』
とか口走ってた記憶がある。むろんスティーブンさんは容赦なかったが。
その後、夜明けまでホテルに留まらされた。
スティーブンさんは朝靄の街の中、私を家まで送った後、簡単に身支度をととのえご自分はライブラに出社。
マジでどんだけ体力あるんすか。
でも帰ってきたときは上機嫌。
未だにソファでぐったりしてる私に、
「ただいま、ハルカ。一緒に風呂に入ろうか」
濃厚なキスをしてくれるのだった。野郎……。
…………
私がライブラに初出勤する日が間近に迫った。
「もうすぐこの自由きままな生活も終わりなんですね」
シャワーを浴び、スティーブンさんに『隅から隅まで』洗われながら嘆く。
「あ? 嫌なら今からでもクラウスに断りの電話を入れておくけど?」
ヤバい。『あ?』という言葉にすっげードスがこもってた!!