第5章 番頭さんに珈琲を
スティーブン・A・スターフェイズらしからぬボソボソした声だった。
「私は! スティーブンさん以上に頼りにしてる人なんていませんて! レオナルドさんに頼ったのは消去法の結果というか!」
クラウスさんに頼ればスティーブンさんに話が直行だろうし、ザップさんはクズすぎてアテにならん。ツェッドさんは知り合ったばかりで、そこまで親しく無い。
そういうことだ。
信号で車が止まる。スティーブンさんはハンドルに頭を乗せ『ハーッ』と息を吐いた。
心底から安堵したように。一方の私は呆れ果て、
「何でそんなアホな勘違いしたんですか。てかそこまで私が信用出来なかったんですか?」
スティーブンさんは顔を上げ、車を発進させながら、
「そういうわけじゃ……ただ、君と僕は歳が多少離れてるし、君はいつまで経っても完全に打ち解けてくれないようだったし……やっぱり歳が近い方がいいのかなって……」
あ然とするしかない。何だそれ。
スティーブンさんは大人で何でも出来て、いくらでも『私の代わり』がいると思ってた。
そしたら、向こうの方が年齢差とか『捨てられるんじゃないか』とか気にしていたようだった。
私も長々とため息をついた。
「えーと、前々から束縛がちょっと強かったのって、そういう理由もあるんですか?」
何とか言うこと聞かせようとしたり、どうにか従わせようとしたり。
またスティーブンさんはしばし黙り、
「…………家にいれば、君は僕だけを見てくれるだろう?」
そして、車がまた信号で停まった。
「スティーブンさん」
「何だい――っ!!」
私はスティーブンさんのネクタイをつかみ、そのままキスをした。
そして丸くなったスカーフェイスのお顔に、舌を出した。
「スティーブンさんのバーカ」
変な心配しなくたって、スティーブンさんだけを見てるのになあ。
そして信号が変わり、車が発進する。
「私はずっとスティーブンさんだけです。他の方なんか絶対好きにならないですよ。
例えいつか捨てられても――あなたをいつまでも想い続けます」
現実にはスティーブンの方が立場が上のままだ。
年齢差をどう心配しようが、私の存在はしょせん、次の恋人が出来るまでの『つなぎ』みたいなもんだろう。
そこらへん『わきまえてる』と言おうとしただけだった。
だが。