第5章 番頭さんに珈琲を
運転席のスティーブンさんは険しい顔。私の心臓はばくばく言ってる。
そ、そらまあ怒るわなあ。束縛が強いのは確かだけど、本人は私の安全のためよかれと思ってやってたことだし……。
「…………ハルカ」
「は! はいいい!?」
話しかけられ、ビクゥッとした。今度はいったいどんなお説教が来るんだ。
いや、私のあまりの勝手さについに愛想尽きて『別れよう』とか言い出されたら……。
顔を真っ青にしてる間に、スティーブンさんは続けた。
「レオナルドとは仲が良いようだな」
へ?
「え? は、はあ、まあ。話しやすいですし」
『お兄ちゃんオーラ』を漂わせてるから、つい甘えてしまうというか。
しかしお説教が来るかと思いきや、何でそんな話になるんだろう。
「…………」
スティーブンさんはずいぶん長いこと沈黙していた。
窓の外では、夜の灯りが流れていく。
あまり沈黙が長いので、私が半分うたた寝して、その話題を忘れかけてた頃。
「………………彼を、異性として好きなのか?」
絞り出すような声で言った。
わたくし、沈黙。
さらに沈黙。
……………………。
「はああああああ!?」
スティーブンさんをまじまじと凝視した。
「いや! 何で! そんな話になるんですか!」
すると向こうも私を凝視し――脇見運転危ないて――、恐る恐ると言った調子で口を開き、
「違うのかい?」
「当たり前でしょう!! 私が好きなのはスティーブンさん一人ですよ!!」
するとしばし沈黙があり、スティーブンさんが長々と息を吐いた。
それで車内の重苦しい空気が一気に霧散した。
「あー、そ、そうだハルカ、途中でケーキでも買って帰ろうか? 就職祝いに好きなものを買ってあげるよ。それに君のスーツを急いで用意しないと――」
「ちょっと待って下さい、スティーブンさん」
今度は私が冷酷な雰囲気で語りかける。
「な、何だい?」
『ギクッ』という効果音が似合いそうな顔で、スティーブンさんは汗をかく。
「私が! レオナルドさんが浮気してると! 今までずっとそう思ってたんですか!?」
また沈黙。
「今までというワケでは……ただ、君は彼と頻繁にメッセージのやりとりをして話も合ってるみたいだったし、僕よりも頼みにしているように見えたから……」