第5章 番頭さんに珈琲を
スティーブンさんは未だ渋い顔で、
「ライブラの中では――そうだな、少年には呪いよけの護符程度は一応持たせておくか。
だが後の連中は呪いの存在に気づきさえしないし、君に殺意を向けられたところで余裕で跳ね返すだろう」
……大丈夫なんじゃないか、私の呪い。
人死にが出るかも~とか大げさに言ってたけど、やっぱ私を外に出したくないための方便だったのか。
つか『必殺技出来たかも~☆』とか思ってたのに普通に”通じない”言われて二重にショックっす。
『俺……俺だけ必要……』とかレオナルドさんがショックでブツブツ言ってるがフォローはまたの機会にさせていただこう。
スティーブンさんは顔を引き締め、厳しい表情で私を見下ろした。
「言っておく、ハルカ。僕は職場では公私混同はしない。
ライブラでの僕と君はあくまで『上司と新人の末端構成員』だ。
僕らがオフでは恋人同士なこと、同棲していることは、絶対に表沙汰にしない」
クラウスさんは『そこまでしなくとも……』という顔だったけど、スティーブンさんに睨まれ、言葉をのみ込んだ模様。
「いいね、ハルカ?」
「はい。よろしくお願いします、スティーブンさん!」
背筋を正して頭を下げた。
それで場の空気が和らいだ。
「では詳しい雇用条件の確認や契約書類等は、日程を調整し後日に。ミス・ハルカ。今夜はこれで失礼します」
クラウスさんが貴族的に一礼し去って行く。
「すまない、クラウス。少年も面倒をかけたな。修繕費はこれで足りるか? では明日」
私たちも家に帰る。
「どうも、お疲れさまです」
上司二人が去ることにホッとした色を隠さないレオナルドさん。
私はスティーブンさんに手を引かれながら振り向き、迷惑をかけたことに対して頭を下げる。
でもレオナルドさんは笑顔で、
「またね、ハルカ」
「はい、レオナルドさん!」
私はパッと顔を明るくして『お兄ちゃん』に手を振ったのだった。
…………
外は真っ暗だ。
私が車の助手席に座ると、バタンと車のドアが閉まる。
そしてシートベルトをするが早いか、車は急発進した。
「うおわっ!!」
抗議しようかと思ったけど、スティーブンさんが常に無い不機嫌オーラを漂わせてたので、そーっと様子をうかがった。