第5章 番頭さんに珈琲を
クラウスさんの唐突な提案には、さすがに面食らった。
「そんないきなり……」
しかしクラウスさんは大真面目だった。
「我々の組織は常に人材を求めている。だが秘匿性ゆえに人材の選考に時間をかけねばならないのもまた事実」
ま、まあ秘密結社だし、ファーストフードのバイト面接みたいに行かないことは確かだ。
「その点、ミス・ハルカならば心配いらない。スティーブンが信頼する女性であり、聡明かつ社交的、過酷な運命に立ち向かい、悪意に満ちた呪術に打ち勝つ勇気もおありだ。
彼女なら我々の信頼に必ずや応えてくれるはず!」
あ……いや私、社交的の正反対ってか。
それと、私のハードル、そんな天井近くまで上げられても困るんですが……。
クラウスさんはキリッとした顔で私を見、
「ミス・ハルカ。ご自分のご意志で歩きたいというあなたの願いはこれで叶えられるでしょう。
その上でなお、何か思い悩むことがあれば、そのときは事務所に泊まればいい」
いや何が悲しくて職場に寝泊まりを……。
そう考えかけてハッとする。
いいのか? 少し前まで一般市民でガキだった私が、いきなり『世界の均衡を守る』という大層な組織に勤めて。
レオナルドさんは呆気にとられたまま、どっちつかずの顔で、キョロキョロ。
私は恋人を不安のまなざしで見上げた。
「スティーブンさん……」
てっきり大反対するかと思った。
だが、彼は腕組みをして長いこと沈黙し、
「……分かった。クラウス、君の提案を受け入れよう。ハルカもそれでいいね?」
「え」
驚いてスティーブンさんを凝視する。けどスティーブンさんはあきらめ顔で、
「それでハルカの安全が確認出来、ハルカが落ち着いてくれるなら僕も助かるよ。
ティーンエイジャーの悩みにとらわれて、定期的に家出されるより数百倍マシだ」
……い、いや、こっちは結構真剣なんだから『ティーンエイジャーの悩み』で切り捨てんなや!
「でも私、まだ呪いの制御が……」
自分で出て行くと言った割に、そんなことを口にしてしまうが、
「元々そんな強い呪いじゃないんだ。マフィアに誘拐されたときのように、殺意を先鋭化させない限り、日常生活はまず問題ないさ」
え。ちょっと待って。