第5章 番頭さんに珈琲を
レオナルドさんが背後でホッとした顔で息を吐いていた。
どうやらさっき、スマホでクラウスさんを呼んだらしい。
「レオナルド君、失礼する」
デカいクラウスさんが入ってきて、ただでさえ狭いレオナルドさんの部屋がますます狭くなる。
「スティーブン。だいたいの事情は把握した。私はハルカ嬢の自立精神と、屈服しない魂に感銘を受けた」
ど、ども……。
「私は、彼女の強い意思は尊重されるべきものと考える」
クラウスさんはだいたい女子供の味方らしい。
スティーブンさんは渋い顔で舌打ち。
「あのなあ。君がどう言おうと今回ばかりは別だ。
ハルカは銃も扱えない、軽微な呪術しか出来ない普通の女の子だ。
この街で一人暮らしは危険すぎる」
理詰めで行くつもりなのか、矢継ぎ早にまくし立てた。
「前のような誘拐があって、次に無事に戻れる保証はない。そのとき後悔しても遅いんだぞ?」
親友相手でも口調がとげとげしい。
だが、クラウスさんは重々しくうなずき、
「その点に関して私も熟慮した。その上で私は君の懸念を払拭すると共に、ミス・ハルカの手助けとなる考えを述べたい」
「何?」
スティーブンさんがピクッと眉を上げる。
私もレオナルドさんも、『どうするつもりだ?』とクラウスさんをまじまじと見た。
そしたらクラウスさんは堂々たる様子で言ったのだ。
「よって私は、ミス・ハルカをライブラの新メンバーとして迎え入れることを提案したい」
沈黙。
『はあああああああ!?』
私、レオナルドさん、スティーブンさんの声が安アパートに響いたのだった……。
「な、何をたわけたことを! 正気を失ったのか、クラウス!」
スティーブンさん、ついにキレて親友兼上司の胸ぐらをつかんだ。
「俺たちの仕事は世界の均衡に関わるものだ! どれだけ危険なものだと!!
この子は一般人なんだぞ!? それを巻き込むと言うのか!?」
だがクラウスさんは平然とし、スティーブンさんの手をはなす。
「ライブラの仕事は戦闘ばかりではない。戦闘員を裏で支える仕事もまた重要なものだ。
ミス・ハルカには君の手伝いをやってもらえばいい。
そうすれば彼女は常に君の目の届く場所にいることになる」
……つまりスティーブンさんの助手をやるってこと?