第5章 番頭さんに珈琲を
押し問答は続いていた。
「君の気持ちは理解したいし、今後はその自立精神に十分な敬意を払い、配慮する。
だから今夜はとりあえず帰ろう。君は僕を愛してくれているんだろう?」
スティーブンさんは手を変え品を変え、あらゆる方向から私を説得しようとする。
「ですから何度も言ったとおりに――」
頭の悪い私はとにかく同じ事を繰り返す。でも絶対譲らない。
「頑(かたく)なだな、君は」
「スティーブンさんこそ、物わかり悪いですよ」
話は平行線をたどる一方だ。
一時的とはいえスティーブンさんから自立したい私と、『危険』だと徹底抗戦の構えのスティーブンさん。
「あの、スティーブンさんも俺も思うんですが――」
レオナルドさんは私の味方をしてくれるっぽい。
だが相手が悪かった。
「そうかそうか、少年。なら君は、君の妹さんがこの街に来て一人暮らしをしたいと言ったなら応じると言うのかい?」
……この一言でアッサリ黙らされてしまった。
「危険って言ったって、普通に暮らしてる人はたくさんいるじゃないですか!
そんな風に何もかんも警戒してちゃ、何も出来ないですよ!」
「彼らは銃を扱えるし、この街の危険を熟知している。
何より秘密結社の幹部構成員の関係者ではない。もういい、とにかく帰るぞ」
「わ!!」
話は終わりとばかりに腕をぐいっと引っ張られた。
「君の自尊心を踏みにじる真似はしたくはないが、今後は家の外側から施錠をして厳重に居場所を監視させてもらう。君の安全のためだ。いいね?」
外側から施錠。つまり中から出られない監禁状態になるということ。
いや、さっき私の意志を尊重するみたいなこと言ってたやん!
ツッコミを入れようにも、スティーブンさんはそろそろマジギレしかけていた。
私の弁護をしようとしたレオナルドさんも、一睨みされただけで黙ってしまう。
ああ、こんなことなら黙って出て行くんじゃなかった。
判断の甘さを後悔しても遅い。
かくて私が家に連れ戻されようとした、そのとき。
「話は全て聞かせていただいた!」
凜とした声が響く。
「……今度は君か」
スティーブンさんがうんざりしたような声で言った。
行く手に立ちはだかるように、クラウスさんがドアの前に立っていた。