第5章 番頭さんに珈琲を
私はうつむき、小さな声で言った。
「守られっぱなしで閉じ込められてるの、嫌なんです……。
レオナルドさんみたいに、大変でも、ケガをしても、自分で生きていける自信が欲しいって……」
「危険だ。君は女の子だし、ひ弱な呪い一つしかないのに――」
即答だった。私は喉元まで出てきた声を引っ込めようとしたが、
「スティーブンさん。最後まで言わせてあげて下さい。お願いします」
レオナルドさんに言われ、スティーブンさんも渋々口を閉じた。
だから私は、もっとか細い声で言った。
「いつ、スティーブンさんに捨てられてもいいように……」
「……!」
恋人は絶句する。私の言葉にスティーブンさんはショックを受けたようだ。
そらそうだ。つきあってる最中に別れるときの想像なんて、不吉にも程がある。
「ハルカ、僕は――!」
私はそれを手で遮った。
「だって最初は別れるためにおつきあいを始めたんでしょう? 見殺しにされかけたこともあったし……」
お忘れかもしれんがスティーブンさんは元々『大切なものを作らない』主義のお人だったのだ。
つきあった当初の目的も『一緒にいれば悪い点も見えて熱が冷める』というとんでもない理由だった。
「それは悪かったと思っている。だからこそ反省して今は――」
大切にしてくれる。保護してくれる。守ってくれる。
「だからですよ」
静かに言った。
「いつか変わるかも知れない。私の目の前から消えるか分からない。それが、怖くて……」
ポタッと涙が落ちる。
抱きしめられキスされて『神に誓うよ』と慰められて安心出来る話ではないのだ。
「だから一人でも生きていける力が欲しいんです!
今の弱い自分のままでいるのは、怖いんです……」
耐えきれず、まぶたを覆って嗚咽する。
誰かがそっと私の肩を抱いた。
「ごめん、ハルカ……不安にさせた」
スティーブンさんだ。
「そうだな。君は、自分の世界がひっくり返る体験をした。最も愛していた人たちに裏切られた。
僕はその心の傷に、もっと配慮すべきだった」
……ハッキリ言われると照れるなあ。
そういう『かわいそう』な子じゃないつもりなんだけど。
「だがそれはそれとして、一人暮らしは認められない!」
ヤバい! 話が全然進まないっ!!