第5章 番頭さんに珈琲を
レオナルドさんの部屋は、常に無い冷気に覆われていた。
私、『常春の呪い』改め『常春の力』をちょびっと解放し、室温をちょっと上げてみる――けど焼け石に水である。
スティーブンさんが床に靴を触れさせた瞬間に、たちまちに室内温度が急降下したのだ。
敵は、室内唯一の椅子に座って足を組み、こちらを見下ろしている。
「悪いね、ハルカ。確かに相反する能力ではあるが、君と僕の差は歴然だ」
そうだろう、そうだろう。
小娘の私と、ずっとずっと前から戦闘員として生きてきただろうスティーブンさん。
一般人と兵士、新兵とベテランという安い言葉では追いつかないくらい、私たちの間には差がある。
「てか、ここ俺の部屋なんですが……」
両手で身体を押さえガタガタしてるレオナルドさん。
彼は冷たく部下を見、
「少年。君がしゃしゃり出てハルカを庇うからだろう?
大人しく彼女を差し出していれば、こんなことにはならなかった」
完全に悪役のセリフである。
けど敵はこちらに目を向け、
「で? なぜ家を出たいと思ったんだ?」
「そうだよ、ハルカ」
レオナルドさんも防寒着を着ながら私に促す。私に本当のことを言えと。
本当のこと……本当の……。
「いやあ、何となくその気になって♪」
「よし帰るぞ」
「ちょっとーっ!!」
私の前に立ち、怯えつつも私を庇う姿勢のレオナルドさん。
対峙(たいじ)するのが同性かつ部下ということもあり、スティーブンさんは威圧気味に睨みつける。
「少ね……レオナルド。ハルカを一時保護してくれたことには礼を言う。
だが元々これは僕とハルカの話だ。
君には関係がない。部屋の修繕費も後日払う。だから――」
「す、スティーブンさん……ハルカにちゃんとしゃべらせてあげて下さいよ」
「……へえ?」
スティーブンさんの冷たい目が私にも向けられ、心臓が凍りつきそうになる。
うん……。
スティーブンさんは最強の恋人だ。
大人で、お金持ちで、顔も良くて頭も良くて、しかも力もあって。
あまりにもまぶしすぎる。
だからこそ、私は自分の言いたいことをなかなか素直に言えなかった。