第5章 番頭さんに珈琲を
『逃がすか』と全力で私の腰にしがみつくレオナルドさん。
「きゃー。お兄ちゃんのエッチー!」
「ふざけてる場合か!! だから兄呼ばわりするんじゃない!!」
私たちはベランダでしばしもみ合う。
けど、やはりレオナルドさんは年上の男性。力負けし、室内に戻されてしまった。
すかさず窓に鍵をかけるソニック。畜生め!
「なあ落ち着けよ、ハルカ」
レオナルドさんは私の髪を撫で、ベッドに座らせた。
私は『はー、はー』と息を整えながら、呪いだけはどうにか発動させないようにした。
「全部上手く行ってるんだろう? 呪いも制御出来て、この街に住むって決めて、スティーブンさんと仲良くて……それのどこが、出てくる理由になるんだよ」
そう言われて、私も腕組みする。
そしてしばし考え、出した答えは――。
「全部です」
「いや意味分かんないし……」
そう言いつつも、スマホを取りだし、どこかに連絡を取ろうとする。
だが。
「あ――」
その瞬間、首筋に冷気を感じる。
スマホを操作していたレオナルドさんも硬直した。
安アパートの薄いドア。その脇の壁が……ピシピシと凍りついていった。
そしてドアの向こうから、
「エスメラルダ式血凍道――」
「わー!! 待って待って!! 開けるから俺の家壊さないで下さいっ!!」
レオナルドさんの絶叫が響いたのであった。
…………
五分後。
私はぶらーんと、猫の子のごとく襟首つかまれた。
スティーブンさんは私を引きずりながら、完璧なる無表情で、
「面倒をかけたな、少年。次にハルカが来たときはすぐにこちらに連絡してくれ。それじゃ――」
と、修繕必須なドアから立ち去ろうとしたが、
「……あ、あの、ちょっと待って下さい、スティーブンさん」
レオナルドさんがそーっと声をかけた。
「何だ?」
不機嫌そうに部下を振り返るスティーブンさん。
上司の氷のまなざしに『!』とフリーズしかけながらも、レオナルドさんは言った。
「少しハルカの話を聞いてあげた方がいいと思います」
そして私を見、
「ハルカもさ、スティーブンさんにちゃんと言った方がいいよ。
こんな相手に心配をかけるだけの方法は良くないって」
そう言ったのだった。
お兄ちゃんの顔で。