第5章 番頭さんに珈琲を
ヘルサレムズ・ロットの街の一角。
夕日の差す安アパート。
「え……」
目の前の糸目は、絶望に顔を引きつらせていた。
「ええと……もう一度言ってもらっていいかな? ハルカ」
彼はレオナルド・ウォッチ。
私と同じ元一般人だけど、ライブラに身を置き何やかんやでこの街で暮らしている人。つまりはスティーブンさんの部下だ。
ここは彼の住んでる安アパートである。
私は両手を胸の前で組み、可愛らしい上目遣いで、
「しばらくここに泊まらせて♡ レオナルドお兄ちゃん♡」
「帰れっ!!」
全力で拒否られた。
スティーブンさんの家を出たはいいが、この街の治安の悪さは尋常では無い。
ホームレスを出来ないことも無いが、結局レオナルドさんの家に転がり込んでいた。
「何でいきなり家出してきたの! スティーブンさんと喧嘩したの!?」
「いえ極めて良好で大変良くしていただいてます」
私、ソニックの毛繕いをしつつ言った。
「呪いが強くなったとか、一緒にいられない理由が出来たの?」
「呪いの制御は順調です。ここに来るまで一人も死んでません」
『怖ぇ!!』と慌てて私から距離を取るレオナルドさん(&ソニック)。
この狭いアパートなら、十分に私の呪いの効果範囲内なんだけど、それは置いておこう。
「じゃあ帰ってくれよ!! 俺、スティーブンさんに殺されたくないよ!!」
「まあまあ。スマホは置いてきたしバレませんって」
「バレる! 絶対バレてるっ!!」
言うが早いか、テーブルの上に置かれたレオナルドさんのスマホが鳴る。
表示はやはりというか『Steven・A・Starphase』である。
「ひいいぃ!!」
大仰におののき、スマホから距離を取るレオナルドさん。
「上手くごまかして下さい、お兄ちゃん♡」
「勝手に兄呼ばわりするなよ!!」
と言いつつ、恐る恐るスマホを取る。
「はい、レオナル――」
『ハルカに伝言を頼む。”その場を動くな。逃げたら殺す”
君もだ、少年。ハルカを逃がしたら――殺すぞ』
通話終了音。
私もレオナルドさんも、その場に立ち尽くす。
「じゃ、そういうことで」
私は窓を開け窓枠に手をかけた。
「待て!! 逃げるんじゃ無いっ!!」
全力で私の腰にしがみつくレオナルドさんだった。