第5章 番頭さんに珈琲を
そしてスティーブンさんは何か思い出したような顔で言った。
「そういえば忘れていた。ヴェデッドから連絡が来ていたんだった」
『ヴェデッド』? ずーっと前に聞いたような聞かなかったような名前。
スティーブンさんは私の頭に手を置き、
「ハルカ。すぐでは無いがヴェデッドを復帰させようと思ってるんだ」
「誰っすか、その方」
スティーブンさんは笑う。
「以前、うちで雇ってたハウスキーパーだよ。事情で長期休暇を取っていたんだが、そろそろ復帰出来そうだと連絡してきた」
ハウスキーパー。ご多忙なスティーブンさんに代わり、家事全般やるお手伝いさんか。
か、金持ちが! セレブがっ!!
「でも大丈夫なんですか? 私、呪いの制御も中途半端なのに」
「一人くらいなら問題はないよ。一応、呪いよけの品も持たせておくし」
……乗り気だなあ。まあスティーブンさんにとってはありがたい話なんだろう。
私も出来る家事はやってるけど、呪術制御訓練は毎日やらないといけない。
休日はスティーブンさんに襲われついで……ゴホン、合間合間に二人でやったりもしてる。
でも家が広いせいもあって、どうしても追いついてないのだ。
「その方がお互いにのんびり過ごせるだろう? 彼女は気さくな性格だし、君もすぐ慣れるさ」
家主の意向なら逆らう理由もない。
私、スティーブンさんに養われてるニートみたいなもんだしなあ。
しかし家事を代わってくれる人がいるのは、確かにありがたい。
でもそうなると、ますます『私って何なんだろう』と思ってしまう。
頭の良いスティーブンさんは、私の悩みを見透かしたのかもしれない。
「君は僕の可愛い恋人だよ。
安全な場所にいて、僕の帰りを待っていてくれればいいから」
ちゅっとキスをされる。
「それじゃ、いってくるよハルカ。今日も遅くなると思うけど、絶対に外には出ない。
運動と勉強と定時連絡は必ずする。自然災害や侵入者があれば僕に連絡し、慌てずにシェルターに避難する」
ハードル高いなあ。
「了解です。いってらっしゃい、スティーブンさん」
もう一度キスをし、手を振ってドアが閉まるのを待った。
「さて……」
広い家にポツンと残され、私はまず自分の部屋に向かった。
荷物をまとめるためだ。