第5章 番頭さんに珈琲を
朝。今日もヘルサレムズ・ロットの空には霧がかかっている。
外の世界では見かけない変な鳥が、ぎゃあぎゃあ鳴きながら飛んでいく。
私はリビングのテーブルに座り、夢心地。
快い鼻歌が聞こえる。
エプロンをし、朝食を作っている恋人の背中。
私はテーブルで頬杖ついてそれを見ている。
そして新聞を広げながら笑顔で、
「スティーブンさん、ごはんまだー?」
すると彼はじゅうじゅうと音を立てるベーコンエッグのフライパン片手に私を振り向く。
そして殺意に満ちたイケメンな笑顔で、
「 手 伝 え 」
えー。
「ほら、指は出さない。野菜はしっかり持って」
「はーい」
猫の手猫の手。
私は渋々ながら、トントンとまな板でお野菜を切りそろえていく。
ぎこちない私の横で、スティーブンさんはテキパキと動き、順調にベーコンエッグとサラダが仕上がっていった。
「切れたかい? じゃ、それをサラダボウルに出して……」
「はーい」
そして朝食が出来上がった。
おおお! オサレなブレックファーストが!!
「何て美味しそう! 苦労して作ったかいがございましたね」
「そうかそうか。九割方、僕が作ったんだけどな?
ハルカは理由をつけて休んだり手を抜いたりしていただろう?」
お、鬼が笑っているっ!!
「努力します努力します努力します!!」
「それは別にいいよ」
スティーブンさんはあっさり答えた。嫌味とかそういう感じではなく。
「今は急ぎでちょっと手伝ってもらっただけだから。
好きでやりたいと言ってくれるなら嬉しいけど、苦手ならそこまで無理しなくていい。
人それぞれ、得意分野があるんだからね」
「……うっす」
こ、心が広いからって劣等感に苛まれてないからね!?
あと、あなたの得意分野の幅の広さ、少しでいいから分けていただきたい。
これも生まれもった才能って奴かな。神様って不公平だなー。
「さ、食べようか」
「いただきまーす」
手を合わせて朝食をいただく。ベーコンエッグを切り分けながら、私は幸せであった。
…………
スティーブンさんは軽快にジャケットを羽織り、腕にお高そうな時計をつける。
私はカバンを持ち、玄関までお見送り。
「いってらっしゃいませ、旦那様」
「……その言い方、止めてくれるか?」