第5章 番頭さんに珈琲を
ともあれどうにかスティーブンさんは、お出かけになった。
閉まるドアに背を向け、私は解放感に大きく伸びをする。
やることはたくさんあるけど。あるけども。
「まずは二度寝でも――」
「二度寝?」
凍りついた。白昼の幽霊を見たかのように。
後ろを振り向くと、閉まりかけたドアの隙間から氷の瞳がのぞいている。
「君にはやることがたくさんあるだろう?」
「……はい」
「それと僕が帰ってこないとき、夜はちゃんと寝るように。夜更かしはしないこと」
「………………あの、そこまで心配なら前みたいに監視カメラで監視するか、いっそライブカメラで一日中ごらんになってたらどうです?」
チクリと刺したつもりだったが、スティーブンさんの目がわずかに輝いた。
……『輝いた』?
「そうだな。今は君のプライバシーより安全が最優先だ。検討しよう」
「え……」
今度こそガチャッとドアが閉まりロックがかかる音。
私は立ち尽くしたまま、ドアを見つめる。
「検討するなよ……」
まずい。この状況はマズい。
今、立ちはだかる最大の敵の存在に今気づいた。
それは呪いでもヘルサレムズ・ロットでもクラウスさんでもない。
スティーブンさんだ!!
…………
私は部屋で一人、座禅を組み瞑想する――フリをする。
瞑想するフリをしながら、懸命に考える。
呪いが制御出来てめでたしめでたしかと思いきや、前以上に生活の自由がなくなった。
『危険』を理由に、スティーブンさんは私を外に出したがらないからだ。
でも、そこまで過保護にならなくても、もう大丈夫だと思うンだけどなあ。
コツをつかんできたというか、一度制御してしまえば思ったより簡単だったし……。
「わ!!」
電話がかかってきて驚く。
スマホを取ると、
『ハルカ、ごめん。君の声が聞きたいと思って』
く! 負けはしないぞ! そんなこと言ったって!!
『今日は早く帰れるから、どこかに食べに行こう』
優しい笑顔が見えるようだ。
「はい。了解です」
『嬉しそうだね。今、何をしていたの?』
スティーブンさんはまだ私の声が聞きたいみたい。
それがちょっと嬉しくて、
「あなたのことを思い、全裸で××ってました!!」
プツっ。
……通話終了になっていた。