第5章 番頭さんに珈琲を
「いいんです。年齢的にそろそろ来る物があるでしょうし、焦りを感じたところで誰も――すみません冗談でした二度とからかいませんので本当勘弁して下さい」
人を抱っこしながら指をポキポキ鳴らす恋人に、絶体絶命のピンチを感じましたです。
スティーブンさんは恥ずかしそうに咳払いし、
「君がキスをしたくて一生懸命、背伸びをしてくるのが可愛くてつい……運動不足だからバランスが取れず、いつも僕につかまってくるとこも小動物みたいで」
目をそらし、照れくさそうに言われた。
……しっかり私をディスって反撃してるのがスティーブンさんらしいが。
「意地悪禁止です」
「お互いにね」
ふふっと笑い合う。
それで仲直りは完了。
いつもの朝である。
「それじゃ、行ってくるよ。いつも通り、いい子にしていてくれよ」
「はい」
「勉強をする、体力作りをする、制御訓練をする、あと出来る範囲でいいから家のことをする」
「もちろんです。昼にはちゃんと写真とメッセージを送ります。訓練の進捗報告も」
「うーん。午前中も一回はほしいかな」
「了解しました」
「もちろん午後も」
「……はあ。一回くらいは」
「出来れば夕方も」
「善処します」
「絶対に夕方も」
「………………了解っす」
スティーブンさんは私の頭をなでなでしながら、
「後は何かあったかなあ」
いやいいから、とっとと行けや!! ナンバー2なんでしょうがっ!!
「家からは絶対出ないように」
知ってるわ。毎日言われてるんだし。
「スティーブンさん、どのくらい制御出来てるか、一度ルシアナ先生に診ていただきたいんですが」
「分かった。今度一緒に病院に行こう」
……本当に行けるのかなあ。頼むのはこれで三度目だ。
最近、何だかんだではぐらかされ、先送りになってる気がする。
「…………それじゃ、いってくるよ」
「いってらっしゃい、スティーブンさん」
スティーブンさんがドアを開けたので、ホッとして手を振る。
いや、もちろん愛しているし居て欲しいのも本当。
……だがそれはそれとして、最近の過保護だか過干渉だかには少々息苦しさを覚えているのだ。