第1章 連れてこられました
某日。38.3℃。身体が超ダルい。
お薬が効いててちょっと眠い。
なのにイイ歳した大人に絡まれてます。
「い、いや、だってスティーブンさんのお友達を、過剰に警戒する方が失礼じゃないですか!」
「そうとも。確かにクラウスは良い奴だ。認めるよ。少々理想主義のきらいはあるが、それを押し通すだけの実力はある。地位もあるが、おごり高ぶることは決して無い。K・Kも無類の紳士だと褒め称えている。
まして世間知らずな女の子の君が、僕より奴を信用するのも無理からぬことなのかもしれない」
話、聞いてねえ!!
「いえ、そこらへんの情報は今、初めて知りましたし、その発言、半分は単なる友達自慢じゃないですか?
あと前フリなく唐突に出てきた『K・K』って誰なんすか」
未だにクラウスさん像がつかめないが、よっぽど仲がいいんだなあ、とちょっとうらましくなる。
「だからといって、一度話しただけのあいつを、あそこまで信用するなんて!」
全く聞いてなかった。
スティーブンさんの中で、私は『クラウスさん』とやらに無上の信頼を寄せてることになってるらしい。
……しかし、何か様子がおかしいな、スティーブンさん。
「どこまで警戒心がないんだ、君は。そんなことでよく、この街で生きてこられたもんだ」
額に手を当て首を左右に振り、嘆かわしいと言わんばかり。
「いや、あの、スティーブンさん……」
そもそも会ったことがないクラウスさんを『何か信用出来そう』と思ったのは『スティーブンさんの親友』という土台あってのもの。
でなければいくら良い人そうでも、いきなり警戒を解いたりしませんがな。
いったいどうしたんだ、スティーブンさん。
ん? 待てよ。もしかして……。
「私が信頼しているのはスティーブンさん、お一人です!」
「本当かい?」
顔を上げたスティーブンさんの目に、わずかな光。
「本当です! わたくしめのようなクソガキを拾い、面倒を見て下さって、心から感謝してます!
クラウスさんとかどうでもいいくらい、あなたしか目に入りません!」
どうでもいいも何も、クラウスさんに会ったことがないが。
「君の言葉を信じていいのかい?」
「もちろんですとも! 世界で一番尊敬しております、スティーブンさん!」
「…………」
「……だから、もう寝ましょう?」