第1章 連れてこられました
そして、家にはまた私一人になる。
私はトレイにのったリンゴのすり下ろしをゆっくり口に運ぶ。
『いってらっしゃい』
『いってきます』
たったそれだけなのに、ニヤニヤする自分を抑えられない。
よし、スティーブンさんが戻ってくる夕方までに、ちゃんと寝て、熱を下げるぞ!
…………
「……ただいま」
「お、おかえり、なさい?」
半時間後。私の前には帰還した家主がいた。
「早いですね。それにどうしたんすか、それ」
私はベッドに横になりながら、目を丸くした。
なぜなら、スティーブンさんは手に花束を持っていたのだ。
「クラウスが話ついでに君の様子を聞いてきて。
君がまだ僕の家にいて、今は熱を出して寝てるって言ったら、血相を変えて、すぐに戻ってやれと……」
「いやだって、仕事の打ち合わせがあるんでしょう?」
「それは電話かパソコンででも出来ると……あ、これ、奴からのお見舞い」
私にバサッと花束を渡す。
「……ど、ども……」
電話で一度話しただけの人に、お見舞いの花束を渡された!
「変わった人ですね」
そういえば、最初のときも一切疑うことなく、私の話を信じてくれたっけ。
「皆、そう言うよ。いい奴なんだけどさ」
椅子を引いて腰かける。足を組みながら困った顔。
「昔から、ああいう奴でさ。会ったことも無い君のことをすごく心配していたよ」
何だか照れるなあ。
「行き場がないのなら、自分のポケットマネーで宿泊施設を提供してもいいとまで言ってきた。全くあいつと来たら」
肩をすくめ、私に笑う。私も笑いながら、
「それもいいかもですね」
「え?」
「あ、いえ、もちろん宿泊費はいずれお返ししたいですが、そういったものが利用出来るのなら、ここを出て――」
「ちょっと待ってくれ、ハルカ」
「?」
見るとスティーブンさん、目が笑ってなかった。
あ。ヤバ。『この家が嫌』みたいに受け取られ、気を悪くさせただろうか。
「あ、もちろんここが嫌とか、そういうことじゃ――」
「何であいつの提案なら、あっさり呑むんだ?」
「は?」
スティーブンさんは明らかに不機嫌だった。
「言っちゃ悪いが、君は最初、僕のことを警戒していたよね。
なのに一度話しただけのクラウスのことは、何でアッサリ信用するんだよ」
ええー……。