第5章 番頭さんに珈琲を
そしてスティーブンさんはチョコの箱からもう一個取り出し、
「あーん」
……ものすごい無表情に言ってきた。
これは食餌(しょくじ)という名の拷問ではなかろうか。
…………
歯磨きから戻ると、スティーブンさんはベッドで目を閉じていた。
もしかして寝ちゃったのかなあ。私はギシッとベッドに乗る。
息を確認するか、濡れたタオルを顔に乗っけるか、どっちにしようかと考えていると、
「わ!!」
ガバッと抱きつかれた。
ぐるんと視界が回り、ベッドに押し倒される。
「スティーブンさん~」
下から手を伸ばし、黒髪をちょいちょいと撫でてやる。
「美味しかった?」
「ええもちろん! 美味しかったです! さすがスティーブンさん! そういうわけで、そろそろ寝ましょうか! えらい健全にっ!!」
「君と不健全なことをしたい」
ちゅっとキスをしてくる。やっぱりか。
「もう寝ましょうよ~」
「寝るまえに物を食べただろう? 少し運動しないと」
ニヤニヤと、チェシャ猫のごとく笑う恋人。
「いや無理やり食べさせられたと申しますか」
「へえええ?」
怖い! 笑顔が怖いっ!!
「じゃ、お詫びにたっぷり運動させてあげないとな」
春風のごとく大変に爽やかな笑顔で、スティーブンさんは私のパジャマに手をかけたのだった。
あーれー。
…………
…………
眠い。うとうとする。でもまだ、甘やかな雰囲気につかっていたい。そんな感じ。
「スティーブンさん、機嫌が悪かったの、治りました?」
たくましい裸の胸に頭を預け、心臓の鼓動に耳を傾ける。
スティーブンさんは私を抱き寄せながら、
「……別に機嫌を悪くしてはいないよ。寝てたのを起こしたのは悪かった」
今頃言うか、それ。
「どうも今夜は疲れていたらしい。君にあんな意地悪をするなんて」
欲望を発散してようやく落ち着いたのか、少し決まり悪げに言った。
「いや、疲れて無くともけっこう意地悪ですよ?」
「へええ?」
怖い。目が剣呑な光を帯びているっ!!
「…………先ほどの私の発言に大変に不適当なものがございました。お詫びして撤回させていただきます」
「分かればいい」
大人の男性の無言の脅迫に負けた。しくしくしく。