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【血界戦線】番頭さんに珈琲を

第5章 番頭さんに珈琲を



 前略。スティーブンさんが何やら壊れ……コホン、疲れていた。
 そのとき私が、ちゃんと相手をしなかったのでスネられた。
 私が起きなかったので、完全にヘソを曲げたらしい。いい歳して。

 
「口を開けて」
 無表情に言われた。

「あーん」

 命令通りに口を開けると、口の中に甘くて茶色い宝石が転がり込む。

 私はワザとらしいくらいに喜び、
「スティーブンさん、美味しいですね!」
「そ?」
「お口がとろけそうです! いやあ、さすが高級ショコラティエのプラナリア!」
「プラリネ。再生実験でもする気か?」
 冷たい声で修正された!

 えーと。今、私たちはベッドでゴロゴロしてます。
 深夜に横になったまま甘い物を食うという、ダイエットの三大禁忌を犯しています。
 全てはお疲れ気味の恋人を癒やすために! 癒やすためにっ!!

 ……私が物を食って、何でスティーブンさんを癒やせるのか謎だが、向こうが食わせたがってるので。

「あの……私が食べてるの見てて、楽しいですか?」
 次のチョコを口に入れようとするスティーブンさんに言うが、
「うん。癒やされる」
 無表情で私の口にチョコを運ぶ。むぐむぐ。

「あ、あの、癒やされるんですか? マジで?」
「うん」
 やっぱ無表情。目の下のクマが濃い。

 暗い部屋で淡々と私にチョコを食わせる男。

 ……正直、ちょっとホラーだ。

「す、スティーブンさんも食べましょうよ、これ、すごく美味しいですよ?」
「夜に物を食べるのは身体に悪い」
 喧嘩売ってるのか、おんどりゃああ!!
 ……という心の叫びはおくびにも出さず、

「そんなこと言わないで。はい、あーん♡」
「……ん」
 渋々といった感じで口を開けた。プラリネだかプラナリアだか分からんチョコをそっと投下。

「…………ハルカ」
「はい? 美味しいですか?――!!」
 キスをされた……と思ったら。
「……っ!! んんっ……!!」

 今食ったチョコ! そのまんま流し込まれたっ!!
 生理的な反応でつい呑み込んでしまった。
 目を白黒させているうちに、スティーブンさんは顔を離し、

「……ふう」

 いや、平然と気だるい感じのため息をつかんで下さい。
 微妙に色っぽいし!


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