第5章 番頭さんに珈琲を
「そういう君こそ、照れ隠しに年上をからかう癖は、いい加減に直した方がいいんじゃないか?」
「え?」
「君は照れているときほど、微妙な冗談を言うだろう?」
「微妙とは何ですか! あと照れてないし!!」
「いや照れているね。さっきだって――」
「照れてないってば!!」
あ。あれ? 何で今度は私がムキになってるの? 流れを戻さねば!
「そうやってマウント取ろうとするところ、大人げ無さすぎで――」
「おっと電話だ」
スマホが鳴り、スティーブンさんが立ち上がる。
攻勢をかけようとしていた私は、ズルッと滑った。
「ああ悪い悪い、クラウス。すぐに出るよ。いやハルカが僕と離れたくないってダダをこねてきてさ――ああ、いいんだ。ちゃんと出るから。それじゃ、後で」
「……な……っ……」
そして敵はスマホを切り――ニタァっと邪悪な笑いで私を見下ろした。
「何クラウスさんに大嘘ついてんですか!!」
クッションを投げ飛ばすが、スティーブンさんは華麗に受け止め、私に放りなげた。
「嘘ではないだろう? 僕と離れたくなくて、あそこまで引き留めてくるなんて……そんなことをしなくても夜にたっぷりと可愛がってあげるのに」
嘆かわしいと言いたげな男に再度クッションを投げ、
「構われたがりはあなたの方でしょうが! もう! とっとと出勤して下さいっ!!」
再度クッションを投げ返され、顔にぶつかる、クッションをどかし、再反撃しようとしたら――スティーブンさんが目の前にいた。
そのまま唇が重なる。
つっぱねようとしたけど、両腕でかき抱かれ、余計に唇を押しつけられた。
う、動けないっ!! 細身の割になんでこんなに馬鹿力なのスティーブンさんっ!!
「……っ……ん……」
舌入れてくんな! 出勤すんでしょう!
でもそのまましばらく、舌を翻弄され――やっと唇が離れた。
顔を真っ赤にして口をぬぐい、はぁはぁと息を整えていると、
「良い子にしてるんだぞ、ハルカ。心配しなくても僕だって君だけを見てる。
ダダをこねるのも、ほどほどにね」
慌てて顔を上げるが、敵はすでにリビングから消えていた。
「な……な……」
私はわなわなと身体を震わせ、
「スティーブンさんの卑怯者ーっ!!」
怒りのクッションを全力でぶん投げたのであった……。