第5章 番頭さんに珈琲を
スティーブンさんは、淡々と非情な命令を下す。
「外には出ない。トレッドミルで体力作りをする。
呪術制御訓練を行う、魔道書を読む、部屋の整理整頓をきちんとする、だらしない格好で本を読まない、甘い物をごはん代わりにしない。それから――」
おとんかっ!!
「昼には必ず僕にメッセージを入れること。安全のため写真付きで」
「はいはいはい~」
「『はい』は一回だ」
「はーい」
「…………」
目が冷たい! 目が!!
私はクッションを抱きしめ、ソファに寝転がる。
「いい子にしてますですよ。寝室には今まで通り入らないようにするので安心して下さい。
スティーブンさんの夢を見るようにします」
ふにゃ~、と目を閉じるが、そんな愛らしいわたくしに、
「……腹を出して寝るんじゃないぞ」
だから! おとんか、あんたはっ!!
くっそ~。ラブラブ両思いなはずなのに、最近保護者スイッチがよく入るんだよなあ、スティーブンさん。
すると。
「ハルカ。僕のこと、うるさいと思ってる?」
しゃがんで目線を合わせるな。
「なあハルカ。うるさいと思っているかい?」
指先でつついてくるな!!
「ハルカ。怒ってる? そりゃまあ厳しく言ったかもしれないけど、僕は君のことを心配しているし、恋人であると同時に僕は君の後見人的立場なわけで――なあハルカ、怒ってる?」
うっとうしい! 腕に顔のっける仕草すな! はよ会社行けっ!!
…………。
「ハルカ。僕は年上として君のことを――」
「スティーブンさん?」
「ん?」
「私と離れがたいのなら、素直にそう仰ったらいかがです?」
「!!」
効果てきめん。
敵は顔を赤くして飛びすさった。慌ててコホンと咳払いし、
「な、何を言ってるんだハルカ。僕は別に――」
好機を逃すハルカさんではない。私はクッションを抱きしめつつ、口元を隠してクスッと笑う。
「可愛いですねえ、スティーブンさん。心配しなくても、私はスティーブンさん以外の方に気を移したりしませんよ」
むしろ逆パターンを死ぬほど心配しているが! ここでは! 置いておくっ!!
「だ、だから違うって言っているだろう!? 君という子はそうやっていつも――」
でもスティーブンさん、ふと黙りニヤッと笑う。