第5章 番頭さんに珈琲を
スティーブンさんは私をベッドから追い立て、
「ほら、起きて顔を洗って着替えてきなさい。僕は午後からライブラに出るから」
「えー、昨日、あんだけ大立ち回りがあったのに、一日の休みももらえないんですか?」
「……大立ち回りの原因の一角が何か言っているようだが、事後処理も完全に終わっていないからね。
むしろ僕は普段通りに出るつもりだったんだが、クラウスに半日だけでも休んでくれと止められたんだ。ほら急ぎなさい、食事が冷めるぞ」
……クラウスさん、グッジョブ。
あと遠回しに何やらディスられた気が。
…………
朝食のテーブルで、私は喜びしきりであった。
「美味しいです! 美味しいですね! 美味しいです!」
「うんうん。当然だろう」
エプロンをし、満足げなスティーブンさん。
それもそのはず、今の私は周囲を常温にする力を押さえられているのだ。
よってスクランブルエッグはちゃんと温かいし、デザートのパンナコッタもちゃんと冷たいのである。
当たり前のことが当たり前に出来る。そのありがたみを痛感した。
でもスティーブンさんはエプロンを外しながら、
「それでハルカ。僕はライブラに行く」
「おつかれさまです」
「ハルカ。分かってるだろうけど君は――」
「あ、はい! 通りの車道側は絶対歩きませんし、怪しい人に尾行されてると思ったらすぐ逃げて――」
「分かってない。外出なんて許可出来るわけがないだろう?
しばらく家にいてくれ。これはお願いじゃ無く、命令だ」
……。
「え」
フリーズしたがスティーブンさんはネクタイを締め、ジャケットをふわりと羽織る。
「いや、そこまで心配していただかなくとも、もう呪いは完全制御が――」
「『一時的』にはね。それは最終的かつ不可逆な制御にはほど遠い。
君はいつまた、周囲の生命体を次々に即死させるか分からないんだ。外に出せるわけないだろう?」
ええええええー!
「スティーブンさん~大丈夫ですよ~。スティーブンさんは私のそばにいてくれるじゃないですか~」
腰に抱きつきスリスリするが、
「僕は訓練を受けている。でも外には一般市民も多い、子供だっている。君は殺人鬼になりたいのか?」
「でも……」
「言うことを聞かないとおみやげのチョコレートは無しだぞ?」
私、子供じゃないしっ!!