第5章 番頭さんに珈琲を
スティーブンさんはハンドルを握りながら、
「でもハルカ。君がどうしてもご両親に会いたいのなら――」
「いえ、もういいんです」
私はギュッとスティーブンさんの腕にすがる。
「私はもう、この街の住人ですから」
するとスティーブンさんは目を丸くし、フッと笑う。
「そうだね。少し見ない間に『らしい』顔になったよ」
と、私の髪を引っ張る。こら、運転中に危ない。
「フッ。大人の女に見えますか?」
「ハッ。そういうことを言ううちはまだ子供だな」
鼻で笑われたぁーっ!!
「人はいつから大人になるんでしょうか……」
いじいじとスティーブンさんの袖を引っ張る。
「『最近の若い者は』と思うようになってからじゃないか?」
いやそれ大人っつかオッサ……いや、禁止ワードだと学習したから黙っていよう。
そうこうしているうちに、スティーブンさんの家についた。
私は喜んで車から降り、懐かしい『我が家』を見上げた。
本当に嬉しい。もう私はお客さんじゃなくなるのだ!
「いやあ二度と帰れないかと思いましたねえ!」
……口を滑らせた。
そして冷気を感じ、ハッと後ろを振り向いたら。
スーツ姿のスカーフェイスのイケメンが! 殺意をみなぎらせ! 私を見下ろしている!!
「そうだな。さて僕を今日一日振り回してくれた礼に、たっっっっっぷりと『おしおき』してやらないとなあ」
「ひいいいい! お、お手柔らかに!!」
逃げようとしたが、襟首つかまれ横抱きにされる。
「だーれーかー」
しかし時刻も深夜を回っており、すでに周辺に人はいない。
「呪いの制御祝いだ。まずは一緒に風呂に入ろうか」
あー。そうだった。もう風呂も料理もOK。これからは普通の生活を送れるんだ。
これで私たちが目指してた『二人でちゃんと一緒に住む』が達成された。
言ってみれば、今はラブラブが頂点に達してるところじゃないのか?
よし、色じかけだ色じかけ! 成長した私の魅力でスティーブンさんを参らせてやる!
「い、いじめないで下さい♡」
上目遣いできゅるんと言ってみる。
「ハッ」
鼻 で 笑 わ れ た っ ! ! ! !
その後の事は省略するけど、それはもう『あらゆる場所で』『たっっっっっぷりと』いじめられたのであった……。