第1章 連れてこられました
…………
十五分後、スティーブンさんは『普通』になって戻ってきた。
「さて、食べられるなら、早く食べて回復だ。リクエストはあるかい?」
……そして、さっきのアレを無かったことにしやがった。
「はい。A5ランクの黒毛和牛ステーキのジャパニーズカレーを所望いたします」
「まだ高熱なのに、そんな胃に悪い物を頼むんじゃない」
「リクエストを聞いたくせに」
とりあえず、精一杯合わせた。
元はと言えば、私がやらかしたことだ。
男性は、好きではない女性の身体にも反応してしまうらしいし。
「よし、君の昼食はリンゴのすり下ろしだけ。決定」
「鬼~!」
「はは、部下にも言われるよ」
私の頭をぐりぐりと撫でるスティーブンさん。
私たちは笑い合った。
でも気のせいかお互い『さっきの気まずい空気を何とか流そう』的な雰囲気が漂ってる気がした。
「ん?」
テーブルの上に置いたスティーブンさんのスマホが鳴る。
「またお仕事ですか?」
「かもな。あいつは、今日は何としても僕を休ませる、みたいなことを言ってくれたけどね」
『あいつ』とは、クラウスという、スティーブンさんの上司兼ご友人だ。
「どうした? ああ、うん……分かった。じゃあいつもの店で」
簡単にやりとりを済ませ、スマホを切る。
「休日出勤決定?」
「嫌なことを言わないでくれ。単なる仕事の打ち合わせだ」
伸びをし、部屋を出て行く。
戻ってきたときにはトレイを持っていて、そこに冷製チキンスープとリンゴのすり下ろし、オレンジジュースがのっていた。
ついでに、すでにジャケットとネクタイを身につけ、ご出勤前の格好である。
「食べられるものだけでいいから。無理をしないでくれ。食べ終わったらこの薬を飲んで」
氷枕と、氷のうを新しいものに替えながら言う。
「ありがとうございます」
「夕方には戻れると思う。大人しく寝ているんだよ」
スティーブンさんは手を振って部屋の出口に行く。
「はい、いってらっしゃい」
手を振ると、スティーブンさんが『!!』と驚いたように私を凝視した。
だから『うわ、図々しいこと言った!?』と一瞬、焦った。
でもスティーブンさんは、嬉しそうに頷き、
「いってきます」
と、言って出て行った。