第5章 番頭さんに珈琲を
「あ……っ!!」
行き止まりだった。
肌寒い廊下。むき出しの配管。天井の蛍光灯は切れかけてジジジと不吉に明滅してるし、耳を澄ませばゾンビの足音がすぐ間近まで迫っていた。
焦るが、逃げられそうな場所は見つからない。
やがて腐った肉がびちゃっと廊下を踏む音がし、ゾンビが姿を現した。
私は手錠をしたまま。あるのは周囲を常温にする能力一つきり。
後じさるうちに、背中が非情な壁についた。ゾンビはすぐ近く。
あの少女ゾンビを先頭に、ゾロゾロとこっちに近づいてくる。
このまま、死ぬ?
「……それはちょっと嫌かな……」
手錠をしたまま、足下の鉄パイプを拾う。うう、ズシッと重い。
でも手錠をしたままでもどうにか使えそうだ。
「私を食べようとするなら、頭の残り半分無くなりますよ!?」
あ。ビビリな子はゾンビになってもビビリだなあ。数歩後じさってるし。
私はもう覚悟を決めた。やれるだけやってやる。
――何とか突破して、出来るだけ走る。
冷たい汗が流れる。でもあるのは恐怖よりも高揚だった。
「絶対に生きる……私だってヘルサレムズ・ロットの住人なんだからっ!!」
鉄パイプをぶん回し、マジで女の子の残り半分の頭部を吹っ飛ばした!!
女の子ゾンビはぶっ倒れ、その勢いで周囲数匹が後ろに下がる。
でも重い! 痛い!! ああもう、筋力は全然鍛えてないし。
「あ……」
もう一度ぶん回した鉄パイプを一匹につかまれた。
「わ!」
思わず手を離してしまう。ガンッと地面に落ちる鉄パイプ。
あかん……。
そして勢いを取り戻したゾンビたちが私に群がろうと――。
「エスメラルダ式血凍道――ランサ デル セロ アブソルート【絶対零度の槍】っ!!」
「――っ!!」
ゾンビたちが、氷の槍を突き立てられ、一斉に倒れ、また凍りつき、動かなくなる。
「ハルカっ!! そこにいるのか!?」
「スティーブンさんっっ!!」
これだけ大きな声を出したことは無いってくらいに、大声を出した。
ゾンビを避けながら凍結した箇所を溶かし、やっと群れを抜け、広い場所に出られた。
「ハルカっ!!」
「スティーブンさんっ!!」
向こうから走ってくる音。
そしておぼろげな光の中、その人の姿が見えた。