第5章 番頭さんに珈琲を
うーむ。呪いの開放と急場で、感覚がおかしくなってるのかもしれない。
早く日の当たる場所に戻らないと。
そのとき。
「お、お、お願い……こ、殺さないで……!!」
腰を抜かして怯えきった子が叫んでた。ああ、そういえばこの子もいたっけ。
そういえば巻き込んでおかしくなかったな。
離れた場所にいたから、無事だったようだ。良かった。
「殺さないから、手錠の鍵を探して。一緒にここから逃げよう」
私はなるべく優しく言ったのだが。
「い、い、いやあ……っ!!」
え? 嘘。逃げられた。ショックだ!
あちらは完全にパニックになってるらしい。
「ち、ちょっと!! 危ないですよ!?」
慌てて追いかけた。けど彼女はどこまでも走ってく。
私はほとんど真っ暗闇の中、どことも分からない場所を走り、角をいくつも曲がり、階段を上り、下りた。
そして――。
「うーわー」
そう呟くしか無い。
今、目の前から、骨が砕け、肉が食まれる嫌な音がする。
女の子はすでに絶命している。
そして彼女に群がり、貪るのは――ゾンビとしか言いようのない、おぞましい無生命の群れ。
さすがヘルサレムズ・ロット。ゾンビまでいるのかよ。
「…………えい☆」
私は試しに呪いを彼らにかけてみるが、超絶に無反応だった。デスヨネー。
「……もう死んでるし、あんたら常温以下の体温ですよね、絶対」
あ。ゾンビの何体かがこっちに気づいた。
つか食われてた女の子が動き出した。顔が半分無くなり、内臓が食い尽くされてるのに立ち上がり、眼球の無い目でこちらをロックオンする。
「あなたを助けに来たのに! 裏切り者!!」
私はゾンビの群れに背を向け、全力で走り出した。
…………
…………
私は足下もよく見えない中、必死に走る。
「あーもう! 私の馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!」
限界だった体力に鞭打ち、来た道を急いで戻る。
とっさの判断が出来なさすぎだ。死体を漁ってでも、先に手錠の鍵かスマホを探すべきだった。
「つか呪いは効かないし! ああもう、この呪い使えねぇっ!!
ほんっとに『単に周囲を常温にするだけ』だし!!」
呪いの蛇さんは恥じたように大人しくしていた。役立たずがっ!!
「はあ、はあ、はあ……」
ひたすらに走った。
でも出口は見えなかった。