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【血界戦線】番頭さんに珈琲を

第5章 番頭さんに珈琲を



 私に残っているのは、制御不完全なちっぽけな呪い一つ。
 それが何になるって言うんだ。

 実感する。
 私はスティーブンさんの保護が無ければ、何も出来ないちっぽけな小娘だ。
 そんなことも知らず分かろうともせず、ワガママを言ったり、ダダをこねたりで困らせていた。

 ……本当に、もう二度と会えないんだろうか。
 私たちの関係も何もかも、全部これからなのに。

 そもそもスティーブンさん、私を助けようと思ってくれるだろうか。
 恋人気取りの厄介者がいなくなって、これ幸いと見捨てるんじゃないだろうか。
 私の身体がどうこうされるより、そっちの方がよほど辛い。

 スティーブンさん。

 スティーブンさん。

 スティーブンさん……っ!!

 もう一度会いたい。
 あの声で、私の名前を呼んで欲しい。頭を撫でてほしい。
 お仕事に行くのをお見送りして、あれが今生のお別れのキスだなんて絶対嫌だ。

 もう怖くて怖くて、泣きそうなまま揺られていたら――車が止まった。
 
 同時に私は目隠しを外され、足首の枷を解かれた。

「出ろ。暴れたらこの場で殺す」

 額に冷たい感触。銃だ。私に銃をつきつけてるのは、マフィアっぽい強面の男。
 他にも何人かいる。

 汗が流れる。
 勇ましい私は地平の彼方に吹っ飛び、『死にたくない』だけが思考の9割を占める。
 震える足を車の外に下ろす。周囲はかろうじて足下が見える程度の暗い空間だ。

 耳を澄ましても車の音や人の声は聞こえない。

 どうなるんだと思っていたら、どこからか泣き声がした。
 もう一台車が止まっていて、そこから女の人が下ろされるところだった。

「お、お願い! 命だけは助けてっ!! 許して!!」
 私と似たような歳っぽいけど、怯えて泣き叫んでる。

 外に連れ出した男は舌打ちし――私は目をそらした。
 ガッと言う嫌な音。同時にすすり泣き。
 恐る恐る目を開けると、頬を不自然に張らした女の子が泣いてた。
 気の毒で眉をひそめたが、抗議する勇気も無い。

「歩け」

 再度、銃を背に当てられ、私は指示通りに歩き出す。

 女の子は涙が止まらないようだったが、私を見つけ、ほんの少しだ顔を輝かす。
 私の方に寄ってこようとして、マフィアに睨まれ、すぐ静かになった。

 明かりは見えず聞こえるのは靴音だけだった。

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